アメリカの金融部門は政府に全額返済を保証するよう迫るだろう。それが莫大な社会的ムダや失業者を生み出すとしても。

ジョセフ・E・スティグリッツ
(Joseph E. Stiglitz)
2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。イェール大学教授、スタンフォード大学教授、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミスト等を歴任。現在はコロンビア大学教授。

 新しい年を考えるとき、前の年があまり芳しくなかった場合には、今年はもっとよい年になるだろうと希望を抱くものだ。

 ヨーロッパとアメリカにとって、2010年は失望の年だった。バブルがはじけてから3年たち、リーマン・ブラザーズの崩壊から2年あまりが過ぎている。09年にはわれわれは不況の瀬戸際から脱出し、10年は転換の年になるとされていた。経済が立ち直り、景気刺激のための財政支出は順調に引き下げられるとされていた。

 11年には成長は若干鈍るかもしれないが、それは力強い回復に至る途中の小さなつまずきにすぎないと考えられていた。その後は、われわれはグレートリセッションを悪夢として振り返ることができるだろう。市場経済──政府の思慮深い行動に支えられた市場経済──が、その強靭さを証明しているはずだ。そう思われていたのだ。

 実際には10年は、失望どころか悪夢だった。アイルランドとギリシャの危機によってユーロの存続可能性に疑問符が付き、債務不履行の恐れが浮上してきた。大西洋の両側で失業率は高止まりを続け、10%前後で推移した。住宅ローンを抱えていたアメリカの世帯の10%がすでに自宅を失っていたにもかかわらず、差し押さえのペースは速まっているように見えた。少なくとも、アメリカの誇る「法の支配」について疑念を生じさせた法的混乱がなかったらもっとペースは速まっていただろう。

 残念ながら、ヨーロッパとアメリカで立てられた新年の決意は間違ったものだった。危機の原因となった民間部門の失敗と道理にもとる行為への対応が、公的部門の支出引き締めを要求することだったのだから。そんなことをしたら、ほぼ間違いなく回復は鈍化し、失業率が容認できるレベルにまで下がるのがさらに遅れる。