ジョセフ・E・スティグリッツ
(Joseph E. Stiglitz)
2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。イェール大学教授、スタンフォード大学教授、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミスト等を歴任。現在はコロンビア大学教授。

 全世界がチュニジアの民主革命を祝福している。この革命は中東の他の国々で(エジプトでは特に激しく)連鎖反応を引き起こしており、今後の展開が注目される。チュニジアの先頃の経験が示唆する教訓を学ぶとともに、腐敗した独裁者を倒した若者たちが安定した機能する民主主義を築けるかどうか見守るために、今、世界中の目が人口1000万人のこの小さな国に注がれている。

 まず、教訓から。第1に、政府がまずまずの経済成長を実現するだけでは十分ではない。なにしろチュニジアのGDPは過去20年にわたって年率5%前後の成長を続け、同国はとりわけこの地域では比較的高い経済成長を遂げている国の一つとしてたびたび引き合いに出されていたのである。

 国際金融市場の命ずるところに従うことも、やはり十分ではない。それは国債の格上げをもたらし、国際投資家を喜ばせるかもしれないが、それによって雇用が創出されるわけでも大多数の市民の生活水準が向上するわけでもない。第一、債券市場や格付け機関は誤りを犯しやすいということが、2008年の危機に至る過程で明白になった。これらの機関が独裁から民主主義へというチュニジアの動きを今冷ややかな目で眺めていることは、これらの機関の名誉を高めることではない。そして、われわれが決して忘れてはならないことだ。

 まともな教育を提供することさえ十分ではないのかもしれない。世界中の国が、労働市場の新規参入者に行き渡るだけの雇用を生み出すのに手こずっている。だが、高い失業率と腐敗の蔓延がセットになったら火がつきやすい。重要なのは公平感とフェアプレーだ。

 雇用が不十分な世界で政治的コネのある者がそれを手にするとしたら、また、富が限られている世界で政府高官たちが多額のカネを貯め込んでいるとしたら、そのような不公平に対しては――またこれらの「犯罪」を犯した者たちに対しては――当然、怒りがわき起こるだろう。欧米でわき起こった銀行に対する怒りは、われわれがまずチュニジアで、そして今では中東全域で目にしている、経済的公正を求める基本的要求のマイルドなかたちである。