日本のイカ漁師は、日本国内に流れ込んでくる“密漁イカ”によって収入の約30%にも相当する損失を受けている可能性が高い――。こんな衝撃的な試算結果が明らかになった。
東京海洋大学の松井隆宏准教授らの研究グループは、違法・無報告(IU)漁業由来の輸入品が、国内のイカ産業に与えている被害を推定した。密漁漁獲物による経済損失を推定した研究としては初めてだ。
これまでも「日本に輸入される水産物の24~36%、金額で1800~2700億円が違法漁業により漁獲されたもの」と推定する研究は、17年に米研究者により発表されていた。だが、安価に流入する密漁品の流通がなければ、本来イカの価格は上昇するはずで、こうした影響を精緻に推定して被害額を推計したものはなかった。
今回松井教授らが行ったのは、実際に密漁イカがどのような影響を水産流通市場やイカ漁業に与えるかについて、経済学的手法で分析したものだ。研究結果は論文にまとめられ、「日本水産学会誌」に掲載される予定だという。
具体的には1990年8月から2016年12月の月次の水揚げ統計や貿易統計、水産物流通統計などのデータを用いて、需要・漁獲・価格と需給関係のモデルを作った上で、昨年発表されたIU漁業由来のイカ類の日本の輸入量推定結果に当てはめたという。
その上で密漁イカの輸入がなかった場合の輸入量について3つのシナリオを設定してシミュレーション。その結果、IU輸入品により、1990~2016年の国内イカ漁業者の累計収益金額の15~29%に当たる243億~469億円に及ぶ損失があったと推定されたのだ。