トラック運転手1人が死亡した京急電鉄の踏切事故。原因がトラックの踏切内での立ち往生にあるのは間違いないが、最新の安全対策を構築していれば、本来防げるはずの事故である。京急の踏切安全対策の現状と限界を解説する。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
防がなければならない
事故だった
今月5日、京急本線の神奈川新町駅に隣接する「神奈川新町1号踏切」で発生した列車とトラックの衝突事故は、トラック運転手1人が死亡し、乗客30人以上が負傷する大事故となった。事故原因の究明は警察の捜査や事故調査委員会の調査結果を待たなければならないが、最悪の場合、傾いた先頭車両が対向列車と衝突する大惨事となっていた可能性もあっただけに、都市部の踏切の安全性について関心が高まっている。
実際、2017年に発生した鉄道運転事故665件のうち、3分の1以上にあたる248件が踏切で発生し、168人が死傷しているように、鉄道事業者にとって踏切事故は永遠の課題であり、東京都市圏にとって構造的な問題でもある。
鉄のレール上を走る鉄道は、少ないエネルギーで走行できる半面、すぐには止まることができない。そのため鉄道は、人や車両が立ち入ることがない専用軌道内を走行することを条件に、大きくて重い車両を時速100キロ以上の速度で運転することが許されている。しかし道路と線路が平面交差する踏切は、例外的に両者が交錯する場所であり、過去にさまざまな事故が発生した危険地帯である。過去に起きた重大な踏切事故を教訓として、遮断中の踏切への進入による事故はともかく、列車の接近前に発生した支障については事故を未然に防止する対策がなされている。
鉄道に関する技術上の基準を定める省令は「自動車が踏切道を支障したときにこれを列車等に知らせることができるものでなければならない」と定めている。また障害物検知装置の発する信号について、同省令の解釈基準は「接近する列車が当該列車の進路を支障する箇所までに停止することができる距離以上の地点から確認することができる位置に設置すること」としている。
今回の京急本線の踏切事故では、踏切脇の路地に迷い込んだトラックが踏切に進入した直後に遮断機が閉まり、踏切内で立ち往生した。踏切には障害物検知装置が設置されていたので、本来は未然に防げるはずの事故であった。
どの過程でシステムが想定通りに働かず、結果的に衝突を防ぐことができなかったのか、また京急がどのような対策を講じるのかについては、今後の調査による解明を待ちたいが、現時点で公式発表されている範囲で、京急の安全対策についていくつか指摘をしておきたい。