ゼネコン列島最前線第9回(下)飛島建設 乘京正弘社長 Photo by Yoshihisa Wada

かつてバブル崩壊後の不況で業績が悪化したゼネコンは、建設業の好景気に乗り復活を遂げている。中堅ゼネコンの飛島建設もその中の一社だ。会社の仲間にリストラを宣告した経験を持つ乘京正弘社長が、今取り組んでいる技術開発や海外戦略などを踏まえ、将来について語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部 松野友美)

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「公共事業はダメ」と刷り込み
ダム技術者がいなくなる脅威

――「建設市場は大きくなることはない」とおっしゃいましたが、この先3年は国土強靱化のために7兆円の予算があります。それでも市場は成長しませんか。

 日本の実質経済成長率は前期比年率1.8%(2019年4~6月期)。世界の中でも低過ぎる。それは公共工事をばかにしているからなんです。国土強靱化はもっと前からやらないといけない話。やっていないからいろいろな災害でボロボロになってしまう。整備のための投資をサボっていただけで本当は一番やらないといけないことです。安全安心を守るためには、建設業が大事だということを、まず認識してほしい。

 たぶん、小さいときから「公共事業はダメ」という教育を受けているので、みんな染まっているだけです。私は元々皆さんの嫌いな“ダム屋”(ダムの技術者)ですから(笑)。私は台風が来るたびに、自分の造ったダムが活躍したと聞くと拍手している。そして、ダムだけじゃない。河川改修も必要です。

 この先どんどんどんどん気候が変わっていく中で、それに対応できて初めて国民の安心安全を守れる。その点に関して、もうちょっといろんな人に認識を持ってもらわないと。特に東京都内の安全な所に住んでいる人たちが、そういう声の発起人になったりしてね。

――7兆円の予算だけでは、大規模な改修までは行き渡らないのでしょうか。

 私はそうじゃないかと思っています。どちらかというと、主役は地方の業者。ひょっとしたらわれわれの出番は、土木とか建築といったものに、どういう付加価値を乗せるかというところで出てくるかもしれない。

――今一番注目し、手掛けたい工事は何ですか。

 私は本当は、ダムをやれればいいのですが、そうはいかない。ダムだけでは効果が出ないので、再度河川の見直しとか、大きな構造物や堤防が必要かとか、全体をコーディネートする計画などに参画できたらいいな。

 あとはソフトの問題です。ソフトの問題の解決はわれわれの仕事ではないですが、例えば避難するスピードを上げるための手だてとかだって、意見を聞いてもらったら、別に金につながらなくても答えられると思うのです。

――ダムの開発はいかがですか。

 今あるダムの再開発として洪水調節容量を増やしたり、洪水吐(こうずいばけ)を新たに造ったりしています。一番困っているのは、ダムの技術者がいなくなること。私はダム工学会の副会長をしていて、そういう話をしています。僕らのときはダム工事総括管理技術者という国家資格があったのに、なくなってしまった。各社から1~ 2人受かるか、全体で20人受かるかというくらいの難しい試験だったのですが、今はそれを受ける人も、受けられる人もいなくなった。ダムを造っていないから経験がないのです。

――次にダムを造ろうとしても、もう造れませんか。

 そうなんです。これは、怖いことなんですよ。

 まあダムが全てではないですが、僕ね、そういうところって多くなっていくんじゃないかなと思う。リニア中央新幹線工事では難易度が高い山岳トンネルを掘りますから、青函トンネル以来の技術者が出てくるかも分かりません。

 技術の伝承も含めて公共工事がなくなったとき、「外国人労働者がいます」とはいかない。日本は地震があって国土がものすごく脆弱だからこそ、品質のレベルはすごく高い。地震がない所に行けば、そこまでのレベルは必要ない。だから、高度な技術をどれだけ伝承できるかというのが大切なことなのです。