選別される銀行#07Photo:Martin Barraud/gettyimages

連携による規模のメリットを志向するのか。それとも身を縮めて地方を深掘りしていく道を進むのか。それぞれの地域銀行はどの道を進もうとしているのか。特集『選別される銀行』(全15回)の#7では、残り時間がそれほど多くない地銀の再編劇の現状を分析する。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

福島銀行、幻の公的資金注入シナリオ
手のひらを返した金融庁

 昨年11月に突如、インターネット金融大手のSBIホールディングス(HD)の資本参加を受けた福島県の第二地方銀行、福島銀行。金融関係者の間では、同県のトップバンクである東邦銀行との統合がメインシナリオとして描かれていただけに、業界には激震が走った。その裏には、何があったのか。幻に終わった「東邦・福島」統合シナリオがこのほど、ダイヤモンド編集部の取材で明らかになった。

 2018年、福島銀に前代未聞の事態が相次いだ。経営不振が続いていた福島銀は、18年3月期単体決算で33億円の最終赤字に転落。同行の社長は引責辞任に追い込まれた。それに伴い、競合する地銀である東邦銀から、同銀グループの証券会社社長を務めていた加藤容啓氏が社長に就任する。

 同じタイミングで、今度は金融庁が福島銀に対して収益力改善を求める業務改善命令を水面下で発動。行政処分は通常、法令違反などをした銀行に対して発せられるため、異例の対応となった。

 福島銀を巡って何が起きていたのか。複数の関係者によると、社長の辞任から東邦銀からのトップ招聘に至るまで、この路線を打ち出したのは、全て金融庁だったという。

 だが、ある地元金融関係者は「金融庁が最後にはしごを外した」と、批判する。

 というのも、もともと金融庁は、地方の中小企業に対する融資の円滑化を図る目的で改正された金融機能強化法に基づいて福島銀へ公的資金を注入し、その上で経営統合というかたちを取って東邦銀が福島銀を救済するシナリオを書いていたというのだ。

 福島銀はかねて収益力が低く、単独では生き残りが難しいと指摘されていた地銀の一つだ。金融システムの安定化を念頭に置く金融庁にとって、課題になっていたのが福島銀の処理策だった。

「県内トップバンクの東邦銀行に引き取らせることができれば、懸案は一段落付く」。前出の金融関係者はこう推測する。注入した公的資金は、統合により誕生した圧倒的な県内トップバンクが返すスキームだった。

 だが、土壇場になって金融庁は公的資金の注入をためらう。理由は関係者も明かさないが、これまで金融機能強化法により公的資金を注入された地銀に、返済の見通しが立っていないところが残っていることが背景にあるとみられている。

 幻に終わったシナリオでは、持ち株会社の傘下に、東邦銀と福島銀がぶら下がり、福島銀が中小企業向け融資に特化した、地域深掘りの「信用金庫モデル」を突き進む計画だったという。

 当てにしていた公的資金の注入が見送られたことで、東邦銀の福島銀との合併熱は一気に冷め、関係者からは「金融庁は公的資金を使って資本面で応援してくれるのではなかったのか」と怨嗟の声も漏れる。

 最終的に福島銀が頼ったのは「第4のメガバンク構想」を打ち出したSBIHDとなった。福島銀の経営再建は、別のかたちで動きだすことになったが、その成否を関係者は固唾をのんで見守っている。