三菱陥落#6Photo:123RF

東京のAグレードオフィス(都心5区の一定レベル以上のオフィス)市場はコロナ禍により、アベノミクスに歩調を合わせて約8年も続いた賃料上昇局面から下降局面へ突入した。そんな中でも「三菱村」と呼ばれる丸の内界隈はこの機にグループ会社集約を検討する会社すらある。特集『三菱陥落』(全10回)の#6では、日本のトップビジネス街として底堅い需要を維持する三菱村のオフィス事情に迫った。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

コロナ禍で「オフィス不要論」浮上でも
三菱地所が強気を貫ける理由

 時計の針がついに0時を過ぎ、不動産業界に緊張が走った――。

 不動産サービス大手の米ジョーンズ ラング ラサール(JLL)は、オフィス賃料の動向を示す独自の分析ツール「プロパティクロック(不動産時計)」で、不動産市場が今どういった局面にあるかを説明する。0時をピークにして、0~3時は賃料下落の加速期、3~6時は賃料下落の減速期、6~9時は賃料上昇の加速期、9~12(0)時は賃料上昇の減速期。時計の針が一回りすると、次の周期に入るという説明ツールだ。

 冒頭の「0時を過ぎ」たとは、三菱系企業の本社が集中する日本一のビジネス街である東京・丸の内界隈を含む東京Aグレードオフィス(都心5区の一定レベル以上のオフィス)の賃料が、ついに下降局面に突入したことを表す。もちろん主な要因は、年明け以降の新型コロナウイルスの感染拡大である。

 JLLの調べでは、四半期別で8年ぶりの下落。丸の内・大手町にエリアを絞っても、6年半ぶりの下落だ。

 リーマンショックが起きた2008年ごろから東日本大震災が起きた11年ごろにかけての時期以来の下降局面だ。当時は、賃料の悪化要因が「景気悪化による企業業績の不振」であることは明白だったことから、いわゆるアベノミクスで景気が上向くと経済活動が活発化し、再び賃料は上昇した。

 近年では、20年に開催予定だった東京五輪・パラリンピック前(18~20年)の“歴史的なオフィス新規供給量”の影響で「いよいよ賃料下降局面に突入する」との悲観的な見方が絶えなかったが、大方の予想を裏切って米ウィーワークに代表されるフレキシブルオフィス特需がけん引し、賃料は上昇局面が続いていた。

 だがいよいよ、コロナ禍で賃料は下降局面に突入した。もちろん景気後退が一因だが、それに加えてコロナ禍ならではの深刻な要因は、在宅勤務やリモートワークと表裏一体で唱えられる「オフィス不要論」にある。

 根の深いオフィス不況に突入しそうな様相だが、それでも「たとえ日本中のオフィス市場が大きく崩れるとしても、丸の内界隈にその影響が及ぶのは最後」と不動産業界関係者は口をそろえる。それは「丸の内の大家さん」といわれるほど丸の内界隈のオフィスの多くを押さえる三菱地所の業績安定を意味する。なぜ丸の内は底堅いのか。