スマホ決済アプリ「アリペイ」で知られる金融ベンチャー、アント・グループ。年間1800兆円もの送金・決済をさばく能力はどのようにして手にしたのか。特集『幻の30兆円上場、アリペイの真実』(全5回)の#2では、最強フィンテック企業の実力を読み解く。(ダイヤモンド編集部特任アナリスト 高口康太)
脅威のキャッシュレス社会
アリペイがリード
「中国・杭州市にやって来た強盗団、一稼ぎするぞと夜中に数軒のお店を襲ったが、レジにはほとんど金が入っていない。これじゃ交通費にもなりやしないとぼうぜんとしているうちに、警察に捕まってしまった」
これは浙江省杭州市でよく聞く笑い話だ。この町は中国IT大手アリババグループのお膝元で、モバイル決済アプリ「支付宝」(アリペイ)の普及率も高い。ここ数年、日本では、中国のデジタル大国ぶりに注目が集まっていたが、キャッシュレスはその象徴ともいえる。
経済産業省の報告書「キャッシュレス・ビジョン」によると、中国のキャッシュレス決済比率(家計の最終消費支出に占めるキャッシュレス支払い手段による年間支払い金額)は2015年時点で60%と、日本の3倍超に達していた。しかも、その後も猛烈な勢いで利用は拡大している。中国インターネット情報センター(CNNIC)の報告書によると、モバイル決済アプリ利用者数は15年末時点で3億5771万人だったが、20年6月には8億172万人と、4年半で2.2倍に増加した。モバイルネットユーザーの86%が利用しているという。
モバイル決済はまず都市部の若者を中心に広がったが、顔認証決済など、より操作が簡単な決済方式が普及したことで、中高年にも利用が広まっているという。CNNICの報告書によると、40歳以上のネットユーザーの利用率は今年6月時点で36.6%、その3カ月前と比べて4.5ポイント上昇している。
中国社会を変えたモバイル決済だが、アリペイはこの市場で55%(19年、金額ベース)のシェアで、騰訊控股(テンセント)擁する微信支付(ウィーチャットペイ)の40%をリードしている。