2021年1月1日、ついに英国がEU(欧州連合)から離脱します。それによってEUと英国の未来はどう変わるのでしょうか。私は2001年からホワイトハウスや国務省、財務省など、米国の政権の中枢で政策の立案・実施を担う現役官僚やOB/OGたちと仕事をしてきました。本連載では私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で紹介した米国と中国、世界、そして日本の2021年以降の行く末についてご紹介しましょう。連載8回目となる今回は、英国のEU離脱に揺れる欧州の行方について解説します。
財政を統合し、ついにEUは一つの国に
現在の欧州連合(EU)の動きとして、著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』では、ドイツのメルケル首相が意を決してEU全体として新型コロナウイルスの復興基金を拠出し、財政不安にあえぐEU加盟国を支援することになった経緯をまとめています。この先、EUが空中分解するよりも財政面も含めてより一体感を強めていくべきだとメルケル首相は考えたわけです。
ドイツ国民の中には、第二次世界大戦への強い反省があり、ドイツという国をEUの枠組みの中に留めておくべきという強い思いがあります。
こうしたドイツの思いとは裏腹に、EU加盟国の中からも米国と同じように自国ファーストに突き進む国が増えています。経済政策の面だけを見れば何よりも自国の成長に重きを置き、周辺国の利益を自国に集めるのが今のEUのやり方です。
EU加盟国のリーダーたちは自国の強みを十二分に発揮して、対立する相手を屈服させようとする考え方が強くあります。イタリアやハンガリーなどでポピュリズム政党が台頭しているのも、EUの厳しい財政規律に従って緊縮財政をやっていては自国民の幸せを手にできないと考えているためです。
こうした困難な状況にもかかわらず、ドイツはEUのリーダーとして、それぞれの国がバラバラになるのではなく、一つにまとまるべきであると復興基金の策定に踏み切りました。
1990年まで米国とソ連という2つの大国の対立の前線基地となり、ベルリンの壁崩壊後もEUのリーダーとして財政難に陥った国をサポートしてきたドイツ。彼らが目指すのは、一体何なのでしょうか。
欧州の全民族に公平な社会を提供するためにEUを維持したいと考えているのでしょうか。
メルケル首相は本当にEU加盟国のためにドイツ国民の血税を払うことを是と判断したのでしょうか。
私は、それとは別の思惑もあるのではないかと感じています。神聖ローマ帝国やドイツ帝国などがあったように、ドイツは再び欧州の大国となることを目指したいと考えているのではないでしょうか。