欧州で台頭する「債務帳消し」論
なぜ著名エコノミストらが意見書を?
欧州でコロナ債務の「帳消し」論が台頭している。4月2日付の日本経済新聞の報道によると、著書『21世紀の資本』がベストセラーとなったピケティ氏ら、独仏伊スペインなど100人を超える経済学者が、今年2月に共同で、欧州中央銀行(ECB)が保有する2.5兆ユーロ(約325兆円)の国債を放棄するよう求める意見書を、欧州の主要紙に発表。これが債務帳消し論台頭のきっかけになったという。
著名エコノミストらによる意見書は、おおむね以下のような内容だ。
ECBがユーロ圏各国の政府債務の25%を保有しているという事実は、自らが自らの負債の債権者であることを意味する。もしECBが債務の返還を求めるならば、他ならぬEU市民が債務の借り換え・増税・歳出カットのいずかを選択しなければならなくなる。当然、こうした行為は経済成長を抑制し、景気回復の妨げとなる。
昨年のユーロ圏経済は、▲6.8%のマイナス成長。その上に、ワクチン接種の遅れなどによって、今年の景気回復への期待も薄れている。昨年合意された欧州復興基金も、欧州議会が必要と考える金額に遠く及ばない。ECBが2.5兆ユーロの債権を放棄し、その見返りに各国政府が同額分の環境投資や福祉政策を行なえば、コロナ禍によって深い傷を負った社会・文化・経済を癒す上で効果的ではないか。
彼らは、西ドイツに対する賠償請求権の凍結を決定した1953年のロンドン協定を引用しつつ、「決して軽々しくECBに債権放棄を求めているのではない」と決意を述べている。その上で、ECBの債権放棄はEUが自分たちの運命を自ら決定する意思があることの力強いシグナルとなる、と意見書を締めくくっている。
これに対し、ラガルドECB総裁は、この提唱を「考えられない」と一蹴した。現時点で政府債務が悪性インフレを招いているわけではなく、ECBが債権放棄という究極的な手段を取らなければならない状況にない。そもそも借りたカネを返すのは、経済活動における基本的な行動規範のはずだ。