ROEPhoto:PIXTA

実はROE経営は日本独自のもの
株価の面からも重要性は低い

 日本では「自己資本利益率(ROE)重視は米国型経営」と誤解されやすいが、実はROE経営は日本独自のものである。米国ではROEを重要業績評価指標(KPI)とする大手事業会社(銀行除く)は存在しない。筆者は、ROEの効用を否定するものではないが、過度なROE重視は弊害を生むリスクがあると考える。そこで、以下、ROE経営の問題点を論ずる。

 ROEは「当期純利益÷期中平均自己資本」によって求められる。またデュポン分析によると、「ROE=売上高利益率(純利益/売上高)×総資産回転率(売上高/総資産)×財務レバレッジ(総資産/自己資本)」と分解できる。よって、自社株買いや配当増などを通じて自己資本を減らすと、ROEを高めることが可能であると分かる。

 米国では、経営者の評価は総合株主収益率(株価上昇率+配当)によって決まることが多い。このため、経営者は積極的に自社株買いを実施する。そして、経営上のKPIとして、配当や自社株買いの源泉であるフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を重視する企業が少なくない(例:アマゾン・ドット・コム、フェイスブック)。

 先進国時価総額上位100社(金融除く)の中で、最もROEが高い企業は大手ホームセンターのロウズである(7月末、1ドル=110円で換算、以下同)。ロウズの株主資本は、2015年度末の8419億円(株主資本比率24.5%)から、2020年度末の1580億円(同3.1%)まで減少した。その結果、ROEは28.8%(2015年度)から340.9%(2020年度)に上昇した。

 株価は過去5年間に134.2%上昇し、時価総額は15兆円もある。 これは、セブン&アイ・ホールディングス(4.3兆円)の3倍以上である。ほかにも、高ROE企業は、オラクル158.8%(株主資本比率4.5%)、イーライリリー150.2%(同12.5%)、マスターカード104.4%(同19.4%)と数多い。

 米国では、優良企業であっても、債務超過(株主資本がマイナス)の企業が少なくない。これらは、分母がマイナスであるため、計算上はROEがマイナスになる。しかし、米国の経営者はROEがマイナスになることをいとわない。

 フィリップ・モリスは、自社株買いでたまった金庫株が3.9兆円ある。その結果、株主資本は1.0兆円のマイナスである(6月末)。マクドナルドの金庫株は7.4兆円(総資産5.6兆円)であり、株主資本は約8000億円のマイナスである(3月末)。同様に、スターバックスの株主資本は約7500億円のマイナスである(6月末)。

 実は株価の面からも、ROEの重要性は低い。