プライム市場への移行基準が未達ながらも、成長投資のための余力が十分にあり「次の一手」を打てる企業はどこなのか――。特集『東証再編 664社に迫る大淘汰』(全25回)の#5では、それを推し量るため、手元の現預金が潤沢なキャッシュリッチ企業を調査した。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)
プライム「逆転合格」できる企業はここだ!
277社のキャッシュリッチ度を独自分析
「株価が割安な今、(株式の希薄化を招く)増資は難しい。だが、そもそも追加でキャッシュが要るわけでもない」。サクサホールディングス(HD)でIR(投資家向け情報提供)戦略を担当する上田康夫取締役は、自社の資本政策についてこう語る。
東京都港区に本社を構えるサクサHDは、グループ内でビジネスホンや公衆電話の製造販売などを担う東証1部上場企業だ。上田氏の言うように、株価の割安度を示すPBR(株価純資産倍率)は直近の期末時点で0.43倍であり、目安の1倍を下回っている。
そんな割安銘柄のサクサHDは、流通株式時価総額が100億円に到達しておらず、東証からプライム不合格の通達を受けた664社のうちの一社である。
6月30日の基準日時点で、サクサHDの流通株式時価総額は65億円。その後すぐに、サクサHDはプライム市場を目指すと宣言した。持ち合い解消を進めて流通株式数を増やしたり、セキュリティー対策機器など新興事業への投資を増やして企業価値を高めたりと、プライム合格に向けて本腰を入れようとしている。
どのようなコーポレートアクションを起こすにせよ、“先立つものは金”だ。だが、上田氏は「増資は必要ない」と言う。
その理由は、手元に総資産の21.4%を占める約78億円の現預金があり、返済義務のない自由に使えるカネを示す「ネットキャッシュ(現預金+有価証券-有利子負債)」だと約55億円あること。加えて、保有する不動産や株式の売却で、相応のキャッシュ捻出が見込めるからに他ならない。
サクサHDが国内100%の製造シェアを握る公衆電話も、スマートフォンが普及した今や“レガシー”と化した。こうしたビジネスに「いつまでも頼れない。やはり事業内容を変えなければいけないので、そのための投資が不可欠だ」(上田氏)と決意を示す。
プライム不合格の通達を受けた企業は、現時点の時価総額も“懐事情”もさまざまだ。仮に市場価値が低くても、自社株買いや配当などの株主還元や成長投資に回せるキャッシュが既に手元にあれば、プライム生き残りの「逆転合格」への道も見えやすい。
そこでダイヤモンド編集部では、東証が設けた1部からプライム市場への移行基準のうち、「流通株式時価総額100億円以上」と「1日平均売買代金0.2億円以上」を満たしていない企業を独自試算で抽出した。
その上で、株主還元や成長投資への余力がどれほどあるかを判断するために、時価総額をネットキャッシュで割った「ネットキャッシュ倍率」を算出。ネットキャッシュがプラスとなったプライム未達の企業277社のうち、ネットキャッシュ倍率が低い順にランキングを作成した。
ネットキャッシュ倍率が低いほど、実質的な手元資金に対して企業価値が割安であると見なされやすい。現在の流通株式時価総額に対して、キャッシュリッチな企業を順番に並べた形となる。
流通株式時価総額の算出の仕方など、ランキングの詳しい作成方法は記事末に記載した。まずは次ページから、どのような企業が上位にランクインしたかを見ていこう。