組織論の世界的権威、グラットン教授が提言Photo Courtesy of Lynda Gratton

長寿化時代の新しい働き方を提言し続ける、ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授。世界でもっとも権威のある経営思想家ランキング「Thinkers50」に選ばれる、人材論、組織論の世界的権威であり、ベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』や2021年10月発売予定の新刊『LIFE SHIFT 2』(共に東洋経済新報社)の共著者でもある。コロナ禍やデジタル化でジョブ(職務)や必要なスキルが変化し、世界の人々が転職や生き残りを懸けてリスキリング(学び直し)に励む中、年功序列制度に守られ、今も危機感が薄いといわれる日本の管理職。南仏滞在中のグラットン氏に、日本の企業とビジネスピープルが変革すべき点を聞いた。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

先進国で唯一「年功序列」が主流の日本、
他国との雇用意識の違いは?

リンダ・グラットンLynda Gratton(リンダ・グラットン)
ロンドン・ビジネススクール・スクール教授。人材論、組織論の世界的権威であり、組織イノベーションに関するコンサルティング会社「HSM(Hot Spots Movement) Advisory」の創始者。世界の経営思想家トップ50「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。世界経済フォーラムの「新しい教育と仕事のアジェンダに関する評議会」の共同議長を務めており、2013年からダボス会議に参加。2018年には安倍晋三首相(当時)から「人生100年時代の社会をデザインする会」のメンバーに任命された。著作は20を超える言語に翻訳されており、『ワーク・シフト』や、アンドリュー・スコットとの共著『ライフ・シフト』は日本でベストセラーに。『ライフ・シフト』は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの読者が選ぶベスト経営書2017で第1位を獲得している。Photo Courtesy of Lynda Gratton(Mat Smith Photography)

――日本の中高年男性、特に大企業のベテラン社員は、「年功序列」「終身雇用」制度に守られてきました。最新のスキルを学ぶ必要性や、モチベーションをさほど感じないまま長年勤めることで競争力が低下し、早期退職や希望退職をしても、転職先が見つからない人も多いといわれています。先進国の中で、日本の「サラリーマン」がもっとも学習意欲に欠けるという指摘もあります。

リンダ・グラットン教授(以下、グラットン) 日本は先進国で唯一、今も「年功序列」という概念が主流の国です。

 他の先進国では、スキルや熟練度が上がれば役職も上がります。年齢で画一的に誰もが役職や賃金が上がるようなことはありません。そうした意味で、日本はかなり珍しい国です。

 ただ、日本は「ライフロング・エンプロイメント」(終身雇用)制度の下で生涯の仕事を保障されている、米国や英国ではその逆だ、このように考えがちですが、いずれも事実ではありません。

 実際には日本にも、有期雇用契約者として働き、生涯の仕事とは無縁の人が大勢いますし、米国や英国にも、生涯ずっと同じ仕事に就く人もいます。

 では、日本と他国ではどこが違うのか?

 それは、米国や英国の人々は、入社した会社に一生とどまるつもりはなく、どこかの時点で転職することを前提にしていることです。つまり、自分が今やっていることを転職市場でアピールできるように、絶えずスキルを磨き、新しいことを学び、履歴書をアップデートし続けなければならないわけです。転職のためには、友人などとのネットワークも必要です。

 もっと柔軟性のある労働市場をつくるには、こうした雇用環境のインフラ、基盤を構築すべきですが、日本ではまさにそれが始まったように見えます。

 その一方で、従業員を数年で入れ替えるような組織が良いとは思いません。