がんを切らずに治すことができる放射線治療。だが日本で放射線治療を受ける人の割合は、欧米に比べると少ないのが現状だ。しかし、そんながん治療のあり方が大きく変わるかもしれない新たな放射線治療が千葉大学医学部附属病院で始まった。これまでよりも格段に高い精度で病巣を“狙い撃ち”することが可能になったのだ。何がどう変わるのか。新しい治療の強みとは。千葉大学大学院医学研究院の宇野隆教授に話を聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
がん全体の5~6割は
放射線で「切らずに治せる」
がん治療には、手術療法、薬物療法、放射線療法の3大治療がある。このうち放射線治療については、存在は知っていても、そもそもなぜがんに効くのか、安全なのかなどは、「正直、あまり知らない」という人が多いのではないだろうか。
例えば今年の1月29日、全国紙の朝刊に掲出された日本放射線腫瘍学会の広告によると、なんと「切らずに治すことができる放射線治療は、欧米ではがん患者全体の5~6割に行われているのに対し、日本ではその割合は2~3割程度に過ぎません」という。
がんは早期発見の場合“手術で治す”のが普通で、放射線治療を受けるのは、がん患者のわずか25%(厚生労働省ホームページ第3回がん対策推進協議会より)にとどまっているのが現状だ。治療の主役はあくまでも手術であり、放射線治療は脇役という常識は日本特有のものらしい。
昨年12月、こうした日本の「常識」を変えるかもしれない、最新の高精度放射線治療機器「エレクタユニティ MRリニアックシステム(以下、エレクタユニティ)」によるがん治療が、千葉大学医学部附属病院で始まった。
千葉大学大学院医学研究院(画像診断・放射線腫瘍学)の宇野隆教授は次のように解説する。
「早期発見されたがんは、放射線治療を適切に行えば切らなくても治せます。放射線は切除不能になった進行がんに対する緩和ケアのためにだけあるわけではない、根治(完全な治療)にも使える治療法なのです。
例えば早期(I期)の喉頭がんの標準治療は放射線治療です。それで90%は治せる。手術は、放射線で治せなかった場合の手段です。ほかのがんでも放射線で治せるものが多いのに、世間の皆さんには情報として伝えられていないのが残念です」