「プロジェクトマネジメント」(PM)とは、目標へ向けてプロジェクトを着実に推進していくためのフレームワークであり、PMに関するノウハウを体系化したものが、米国PMI(プロジェクトマネジメント協会)がまとめた、国際的に事実上の標準とされているPMの知識体系、『PMBOK(ピンボック/Project Management Body Of Knowledge)ガイド』である。2021年7月に新たに発行された第7版は、これまでと観点が大きく変わり、話題となっている。今回、『童話でわかるプロジェクトマネジメント』(秀和システム)など数多くのPM関連の著書を持つ飯田剛弘氏、PMI日本支部でPMの研究会やセミナー活動に携わっている奥田智洋氏と國枝善信氏の3名による共著から、これまでの『PMBOKガイド』と第7版のおもな違いを紹介する。
「どのようにマネジメントしていくのか」から
「どのような原理・原則に沿ってマネジメントをしていくのか」へ
これまでのPMBOKは、「予算と期限を守って、品質や要求事項を満たす『成果物』をきっちり届ける」ことを中心にした内容となっていました。
すなわち、どのようにプロジェクトをマネジメントしていくのかという「プロセス」に力点が置かれていました。これは、プロジェクトを成功に導くためには有効な手段です。
ただ、「プロジェクトの成果物によってもたらされるビジネスの成果や価値を最大化して届ける」という内容までを網羅するのは難しい構成になっていました。
そこで、PMBOK第7版では、今までのPMBOKよりも、この価値を提供することに焦点を当てるため、原理・原則を基にしたマネジメントにシフトしています。
つまり、PMBOK第7版では、「どのような原理・原則に沿って、プロジェクトに取り組み、マネジメントをしていくのか」「より効果的なプロジェクトマネジメントを行うために、何をするのか」に基づいた構成になっています。
では、なぜPMBOKがこれまで以上に、価値を提供することに焦点を当てるようになったのでしょうか。
VUCA時代、プロジェクトマネジメント自体も
進化していく必要がある
現代は、先が見えない「VUCA時代」と呼ばれています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったものです。変化が激しく不確実で、複雑で曖昧な状態のことです。
ビジネスを取り巻く環境においても、社会や市場、テクノロジー、お客様のニーズなどが刻々と変化し、不確実で、将来の予測が困難な状態と言えます。
こういった状況の中では、「そもそも顧客のニーズや課題は何か?」「顧客にどのような価値を提供しているのか?」という本質的な問いは、とても重要になっています。
また、このビジネス環境の変化によって、プロジェクトにおいても、今まで以上に「プロジェクトの成果物がもたらす本質的な価値や変化は何か?」が問われる時代になっています。プロジェクトマネジメント自体も進化していく必要がありました。
こういった流れから、プロジェクトを成功に導くためには、画一的なアプローチではなく、プロジェクトの特性に合わせて、適切なアプローチでマネジメントしていくことが求められるようになりました。
そもそも、「どのようにプロジェクトに取り組むのか」「どのような原理・原則に沿って進めていくのが適切なのか」「効果的なプロジェクトマネジメントを行うために、何をすることが求められているのか」を踏まえた上で、プロジェクトをマネジメントする必要性が出てきました。
そこで、今回のPMBOK第7版は、近年の様々な変化に対応すべく、内容が再構成されています。 次ページで、PMBOK第6版と第7版で、どのように変わったかを見てみましょう。