視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。
「あ、小林製薬」の「あ、」は
何を意味するのか
テレビやラジオのCMで、とても短いけれどもなぜか耳に残る言葉や、他のことをしていてもつい注意を向けてしまうフレーズがよくある。
小林製薬のテレビCMにおけるキャッチコピー「あ、小林製薬」もその一つだ。きっと、これを読んだ瞬間に、あの爽やかで早口な女性の声を脳内再生した人も少なくないはずだ。
この「あ、小林製薬」は、ベストセラー『伝え方が9割』(佐々木圭一著、ダイヤモンド社)の中で、人の心を動かす「強いコトバ」の技術である「サプライズ法」の一例として取り上げられている。
同書によると「あ、」には、人に興味を持たせるためのシンプルな「伝え方」の工夫が凝らされているという。書き言葉の語尾に「!」をつけたり、「ほら」「そうだ」「実は」などの言葉を付け加えたりするのと同様だ。
同じ技法が使われているCMとしては、他にJR東海の「そうだ 京都、行こう」が例示されている。
「あ、」の由来について、あるブログ著者が小林製薬に問い合わせたところ、二つの意味があるとの回答があったそうだ。
一つは、会社のスローガンである「“あったらいいな”をカタチにする」を短縮したもの。もう一つは、商品に出会った時の驚きや感動、感嘆を表す「あっ!」。
このどちらの意味にしても、「今までにない商品を開発し、顧客のニーズを満たす」という小林製薬の企業姿勢がよく表れていると思う。
その企業姿勢や、24期連続増益といった躍進の秘訣(ひけつ)を、現会長の小林一雅氏が多彩なエピソードとともに自ら語っている書籍が『小林製薬 アイデアをヒットさせる経営』(PHP研究所)だ。
著者の小林会長は、小林製薬2代目社長・小林三郎氏の長男に生まれ、大学卒業後、同社に入社。取締役、常務取締役を経て、1976年4代目社長に就任。医薬品の卸業だった小林製薬を衛生日用品・医薬品のメーカーへと転換し、事業を伸展させた。2004年から現職。
小林製薬は1919年創業。冒頭で触れたCMの他に、アンメルツ、熱さまシート、サワデー、ブルーレット、消臭元、サラサーティといった、誰もが知るヒット商品を連発していることで知られる。
大手メーカーが扱っていなかったニッチな製品を開発し、覚えやすく特徴がわかりやすいユニークなネーミングで売り出しているのが特徴だ。