インサイダー IRジャパンの凋落#7

LIXILや関西フードマーケット、東京機械製作所、そして今年のフューチャーベンチャーキャピタルなど、IRジャパンが支援する企業の株主総会で、議決権行使書と委任状が一体になった書面が使われた。この「一体型委任状」について、甲南大学の梅本剛正教授は「株主の合理的な意思決定を妨げる」と問題視する。特集『インサイダー IRジャパンの凋落』(全7回)の最終回は、その理由を梅本教授に聞いた。(聞き手/フリーライター 村上 力)

「うっかりミス」を誘い白紙委任
個人株主を軽視した経営陣の思惑

――「一体型委任状」の問題点は何ですか?

 株主の意思が尊重されるべき議決権行使書が、実質的に経営陣側に都合の良い書面となっている。また、株主にとっては初めて扱う書面であるにもかかわらず、記入方法の説明書が非常に分かりにくい上に、中立的でないということです。

 例えば、東京機械製作所が買収防衛策導入を求めた昨年の臨時株主総会では、会社は議決権行使書面と委任状が一体の書面を使いました。

 同封された説明書を見ますと、まず青枠に白抜きの文字で「青枠内の議決権行使書へのご記入、切り離しは不要です」と強調されています。別の箇所でも青文字と赤文字で「青枠内の議決権行使書は切り離さずに赤枠内の委任状と一緒に同封の返信用封筒でご返送ください」「委任状と議決権行使書を切り離された場合には、委任状と議決権行使書の両方をお送りください」と書かれています。

 さらに、赤枠に目立つ記載で「赤枠内の委任状部分にご記入ください」と書かれています。委任状部分には、議案への賛否欄があるので、パッと見た株主は、この賛否欄に記入すれば、議決権行使ができると思い込んでしまいます。ところが、会社に都合の悪い委任状は、取り扱われないのです。

 説明書の下には、小さく注記事項が付されていて、「なお、議案に反対である等、当社の勧誘の趣旨に合致しない委任状については、当社としてはお取り扱いいたしかねますので、議案に反対である場合には、議決権行使書に否の欄に○印を記入し、委任状と切り離したうえ、議決権行使書のみをご返送ください」と記されています。

 議案に反対する株主は、ただ議決権行使書面に記入をするだけでなく、あえて書面を自ら切り離す手間をかけなければいけません。

 プロの機関投資家であればうっかりミスをする可能性は低いでしょうが、一般の株主には非常に分かりにくく、不親切な説明書で、株主の適切な議決権行使を妨げています。個人株主を軽視した書面といってよいでしょう。

アイ・アールジャパン(以下IRジャパン)が支援する企業の株主総会で使われた一体型委任状。企業統治に詳しい梅本教授は、これを「個人株主を軽視した書面」と指摘し、法規制を検討すべきだとまで踏み込む。それほどの危機感を持つ理由は何か。株主の誤解に基づく投票行為を促しかねない「悪質」なカラクリを、次ページから梅本教授が明らかにする。