大阪・関西万博には住友グループと三菱グループという日本の名門財閥がパビリオンを出展する。出展を決定したのはグループ企業の社長会、住友の「白水会」と三菱の「金曜会」だ。特集『「大阪」沈む経済 試練の財界』(全23回)の最終回では、知られざる三大名門財閥の中枢組織と万博との関わりを追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
「アフリカの専門家を貸してくれ」
住友商事から社員が万博誘致委に出向
「アフリカを攻めたい。アフリカの専門家を貸してくれ」――。
大阪・関西万博の誘致活動が佳境を迎えていたときのことだ。関西経済連合会会長で住友電気工業の会長でもある松本正義氏から、住友商事の中村邦晴会長にこんな打診があった。松本会長は、2017年3月に発足した2025日本万国博覧会誘致委員会の会長代行を務めていた。
万博の開催地を決める選挙は一国一票だ。当時は大阪の他、フランスのサクレー、ロシアのエカテリンブルク、アゼルバイジャンのバクーが開催地として立候補していた(後にフランスは辞退)。50カ国以上が存在するアフリカは、大票田なのだ。
打診を受けた住友商事はアフリカに精通する社員を探し出し、誘致委員会に出向させた。
さらに松本会長からの要望は続いた。「住友商事はパリに事務所があるだろう。1室貸してほしい」。住友商事のパリ本社の一角は誘致委員会の事務所となり、出向した社員はフランスとアフリカとの往復を繰り返した。
18年11月23日、パリで行われた「2025年国際博覧会開催国選挙」。大阪は決選投票で92票を獲得して61票のロシア・エカテリンブルクを破り、万博の開催を射止めた。出向した社員は働きが認められたのか、そのまま2025年日本国際博覧会協会への出向となり、今は万博の開催に向けて汗を流しているという。
「万博の誘致には(住友グループ主要19社の社長会の)『白水会』は関与していない。松本氏と私の個人的なつながりだ」と中村会長は説明するものの、開催が決まった後は、白水会で万博の寄付金100億円の拠出やパビリオン出展を決めるなど、住友の「礎の地」(中村会長)である大阪の国家イベントの盛り上げに総力を挙げて取り組んでいる。
住友グループの他にも、名門財閥である三菱グループもまた、万博のパビリオン出展を決めており、その決断を下したのはグループの社長会「金曜会」だ。
次ページでは、万博のパビリオン出展を通じて浮き彫りとなった住友・三菱の意思決定の流れや負担割合の決め方、グループ内での序列など“財閥文化”の違いを明らかにする。また三井グループの社長会「二木会」は万博に対してどんなスタンスを取っているのかをお届けする。