かつて、がんは「告知=死」と恐れられました。ところが、抗がん剤やがん治療の進歩は目覚ましく、近年「がん全体の5年生存率は60%強」と言われるまでになりました。しかも、ある条件さえ満たせばほぼ90%は死なない病気になりました。ここでいうある条件とは「早期発見」です。早期発見して治療開始した症例だけを見ると、ほぼ100%に達しています。がんは早期に発見して治療すれば、延命ではなく、治癒できる病気になりつつあるのです。この連載では書籍『「がん」が生活習慣病になる日』から、「死なない病気」に近づけた条件の一つである部位別がん治療の最前線を紹介し、さらに二つ目の条件である「早期発見」のがん検診の最新情報も紹介していきます。
主流になりつつある内視鏡手術
がんによる死亡者数は37万8000人強となっています(国立がん研究センター)。その内、肺がんによる死亡者数が全体でトップ。男性では第1位で、女性でも第2位です。男性は4人に1人が、女性では6人に1人が死亡する確率になっています。
肺がんの一般的な治療法は病巣の切除ですが、近年は1~2センチの小さな穴から胸腔鏡という内視鏡を挿入し、先端に備え付けられたカメラの映像を見ながら切除する手術が主流になりつつあります。胸部の切開が小さく、出血量が抑えられ、痛みや癒着が起きにくく、入院期間も短くて済みます。
また近年ではレーザーによる治療法もあります。肺がんの名医である日本医療学会理事長の加藤治文先生が考案した「光線力学療法(PDT)」はわずか30分程度ですみ、患者へのダメージが非常に少ない治療法です。ただし、PDTは喫煙者に発症することが多い「中心型肺がん」の早期だけが対象となります。
肺がんの種類は大まかに、太い気管支にできる「中心型肺がん」と肺胞に近い部位に起こる「末梢型肺がん」にわけられます。「中心型肺がん」は肺がん全体の10~30%で、もっとも比率が高いのが「末梢型肺がん」の中でも「腺がん」といわれるものが60%ほどになります。
1993年から1996年に肺がんに罹患した人の5年生存率は22.5%程度でしたが、2006年から2008年に罹患した人の同率は約31.9%と大幅に上昇しています。このように死亡率や生存率が改善されつつあるのは、治療法の進歩はもちろんのこと、検診による早期発見の効果が大きいと考えられています。
国立がん研究センターによると、ステージ0で発見・治療された人の5年生存率は99.3%。ステージIで発見した場合でも84.6%となっています(2021年)。ところが、ステージIIになると、55.6%にまで大きく下がります。やはり、がんは早期発見が重要であることは疑いようがありません。
早期の中心型肺がんなら1回の手術、あるいはPDTで100%治療が可能であり、治療費は諸経費を含めて120万円程度で済みます。決して小さな金額ではありませんが、体へのダメージも少なくて済みますし、第一進行してしまったがん治療に使われる抗がん剤には、1回の投与で百数十万円、1錠当たり数万円かかるものも少なくなく、年間にすると、数千万円の治療費がかかります。さらに、大きくなってしまった進行がんでは、手術だけでなく、手術後の化学療法や放射線療法など、必要な治療も増えていきます。いわゆる抗がん剤投与による副作用という辛い思いをすることになり、それ以上に転移という心配も出てきます。