乳がんはステージIの早期治療で5年生存率が100%、ステージIIでも95%以上

かつて、がんは「告知=死」と恐れられました。ところが、抗がん剤やがん治療の進歩は目覚ましく、近年「がん全体の5年生存率は60%強」と言われるまでになりました。しかも、ある条件さえ満たせばほぼ90%は死なない病気になりました。ここでいうある条件とは「早期発見」です。早期発見して治療開始した症例だけを見ると、ほぼ100%に達しています。がんは早期に発見して治療すれば、延命ではなく、治癒できる病気になりつつあるのです。この連載では書籍『「がん」が生活習慣病になる日』から、「死なない病気」に近づけた条件の一つである部位別がん治療の最前線を紹介し、さらに二つ目の条件である「早期発見」のがん検診の最新情報も紹介していきます。

罹患者数が増え続け、2003年の約3倍に

 国立がん研究センターの調査によると、2003年には4万3000人だった乳がんの罹患数が、2018年には約9万人に増加。今後も乳がんになる人は増え続け、年間12万5000人程度まで増加するのではないかと予測されています。

 2018年のがんの部位別罹患数順位では、女性の第1位は乳がんとなっていて、死亡者数では第5位(2019年)となっています。著名人が乳がんで亡くなったニュースがたびたび報じられ、乳がんは死に直結するイメージを持っている人が多いかもしれませんが、早期発見できた場合の5年生存率は、ステージ0およびステージIで100%、ステージIIでも95.9%となっています。さらに10年生存率でも、ステージIで92.3%と、むしろ予後が非常によいがんであることがわかります(国立がん研究センター2021年)。

 2019年8月、上皇后陛下美智子さまの乳がん診療が報じられました。この時、上皇后陛下の検診から診断・治療方針などを決める会議・キャンサーボード、そして執刀まで、トップレベルのチームの総合力で取り組んでいるのが静岡がんセンターだと広く知られました。その時のキャンサーボードにも参加した同センターの乳腺外科部長である西村誠一郎先生は、「乳がんはステージが進むと治りにくくなる」と言います。

 病巣であるしこりの大きさが2cm以下で、リンパ節転移がないステージIまでであれば、100%に近い治癒率が望めるのです。

 進行するにつれて、リンパ節転移の割合が増え、その転移リンパ節を介して血流に乗ってがんが広がり、治癒率が下がってしまうからです。また細胞分裂を繰り返して腫瘍のサイズが大きくなっていくに伴って、遺伝情報も少しずつ書き換えられていき、質の悪いがんに変化していくのではないかと推察されています。

 乳がんの細胞も分裂すればするほど、薬への抵抗性が増して治りにくくなっていく可能性が高いのです。

 一般的な乳がん検診で、がんの有無を探るためにまず行われるのが触診で、次にマンモグラフィ検査です。ただし、触診は熟練した技術を要し、触診に慣れた乳腺外科医ではない内科医や一般外科の医師が行う場合は診断の精度にばらつきが出やすいため、企業や自治体が行うがん検診では廃止の方向に進んでいます。

 マンモグラフィ検査では、多くの場合一方向撮影といって、縦方向の若干腋側方向に傾ける角度で撮影を行い、要精密検査となった場合に、再びマンモグラフィで上下二方向の撮影をして見落としを防ぎます。

 さらに必要に応じてエコー(超音波)検査を行い、悪性を疑う所見が出た場合に、組織検査(針生検)を行って診断を確定させます。組織検査は、乳がんであった場合、どのような治療法が有効かを見極めるためにも重要な、痛みも少なく、身体への負担も少ない検査です。

 数あるがんの検査の中でも、受診者が嫌がる代表格がマンモグラフィ検査と言っても良いしょう。人によってはかなりの痛みを伴うことから、忌避する人が多いのです。マンモグラフィに代わる技術開発はされているものの、いまだ一般化されていません。

 一方、エコー検査も触診と同様に修練が必要であり、乳がんの知識の度合いによって発見率にも差が出てしまうため、検査として標準化するのは難しいといわれています。