味の素 絶好調下の焦燥#3Photo:PIXTA

食品のイメージが強い味の素。しかし、今の絶好調を支えているのは、意外にも「半導体事業」だ。味の素の独自製品は半導体業界の必須の存在へと急浮上し、米インテルや台湾TSMCにとっても不可欠なものとなっている。特集『味の素 絶好調下の焦燥』(全7回)の#3では、味の素の半導体事業の「強さの秘密」とともに、強過ぎるために水面下で始まった「味の素包囲網」に迫る。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

味の素は「最新パソコンに全部入ってる」
絶好調をけん引する半導体材料のABF

 味の素の“大ヒット商品”が半導体業界を席巻している。半導体材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」が引く手あまたなのだ。

「最近のパソコンの新製品には全部ABFが入っている」と胸を張るのは、味の素ファインテクノの真子玄迅電子材料事業部長だ。パソコンの世界では、米インテルの「インテル入ってる」が有名なCMのキャッチコピーだが、今は「味の素入ってる」状態になっているのだ。

 ABFの存在感は、半導体業界での呼称からも分かる。ABFは味の素の商品名なのだが、業界で広まり過ぎたために、競合他社の製品もABFと呼ぶ事態になっている。

「ABFを扱いたいが、全然扱わせてもらえない。強固なサプライチェーンが完成していて、入る隙がないね」と総合商社で半導体部品を扱う幹部がこう苦笑するように、争奪戦となっているのだ。

 2022年度決算で4期連続最高益を見込む味の素。食品メーカーのイメージが強いが、今の絶好調を支えるのは「非食品」事業だ。その筆頭がABFなのである。

 味の素の21年度決算で、ABFを含む「ファンクショナルマテリアルズ」セグメントの売上高は605億円で事業利益は289億円。事業利益率は脅威の47.8%と、全社平均の10.5%を大きく上回る。

 同セグメントのうち、ABFの売り上げは7割程度を占めるとみられることから、ABFは味の素をけん引する大黒柱の一つになっている。

 ABFの存在感が半導体業界で高まり過ぎることは、業界の巨人である台湾TSMCや米インテル、韓国サムスン電子などにとっても悩みの種だ。味の素の動向次第で、自社の半導体事業を揺るがしかねない、経営の“アキレス腱”にもなっているからだ。

 次ページでは、味の素のABFが、TSMCとインテルなどにとって必要不可欠な存在になった理由や、そのあまりの強さのせいで、水面下で始まった「味の素包囲網」の実態を解き明かす。