大幅な円安に見舞われている日本では、ソーシャルメディア(SNS)上などで「米国や欧州などに旅行すると物価が高くてたまらない」と嘆く声が散見される。確かに年初来約29%もの円安・ドル高(1ドル115円から148円へ。10月15日時点)は対外的な通貨円の購買力の低下を意味する。しかし日本国民の99%は国内物価で消費している。日本の消費者物価指数(総合)は前年同月比3.0%(8月)だ。
一方、米国の消費者物価指数(総合)は同8.2%(9月)の上昇だから、米国民は自国通貨ドルの対国内的な購買力の低下に悩んでいると言える。ドル相場の上昇はやはり99%の米国民の日常にはある意味で「とうでもいいこと」だ。
高インフレを鎮静化させるための米連邦準備理事会(FRB)の急速なドル金利の引き上げが、株価を押し下げ、ドル高と新興国などからの資金の急速な流出(ドルへの資金回帰)を起こし、世界経済不安定化の要因の一つになっている。では、そもそもなぜ米国はFRBの予想を超える高インフレになったのだろうか。今回はこの問題を考えてみよう。
多くの人はロシアによる2022年2月のウクライナ軍事侵攻を契機にした食料や国際エネルギー価格の高騰が主因だと思っているかもしれない。実はそれは副次的な要因で、米国のインフレへの転換は2021年第2四半期に起こっていた。
筆者は2021年の時点で、2022年のある程度のインフレとドル金利の上昇、株価反落(S&P500で高値から10~20%の下落)を予想していたものの、「国際資源価格の一層の高騰や雇用コスト(前年同期比+4.6%、2021年7~9月時点)のさらなる上昇を想定しない限り、遅くとも来年(2022年)第4四半期までには物価上昇率は鈍化する公算が大きい」(「米国がスタグフレーションになるって本当ですか」2021年11月11日掲載)とFRB同様にやや楽観的に考えていた。
当初の予想を超えた米国の高インフレ要因
FRBは2021年夏ごろまではインフレ高進は短期的と楽観的な判断をしていたが、その後の予想を超えたインフレ率の上昇で判断を修正、今では「インフレ鎮静化」を金融政策の最優先事項に上げざるを得なくなった。FRBの予想を超えて進んだ米国のインフレ高進はなぜ起こったのか。その要因をレビューしてみよう。