エネルギー価格の安定で長期金利低下
インフレも鈍化へ
年明けの海外市場では、2022年末に上昇した欧米長期債利回りが低下した。フランスの12月CPI(消費者物価指数、EU基準)上昇率が市場予想(Bloomberg、前年同月比7.3%)を下回る前年同月比6.7%となったことなどが材料視された格好だ。
フランスほか欧州の12月CPI上昇率の伸び鈍化は各国によるエネルギー補助(エネルギー価格引き下げのための財政出動)の影響も大きく、即座にインフレが抑制されることは期待し難い。
他方、「元日の最高気温は少なくとも8カ国で1月の最高記録を更新した」(CNN報道)とされる欧州の記録的暖冬を受けて天然ガス先物価格が大きく下落しており、欧米債券市場はこの点にも反応した模様だ。
天然ガス先物価格の下落を受け、ニューヨーク市場の原油先物価格も70ドル/バレル付近まで値下がりしたのだ。
23年、世界的にインフレが抑制されるかどうかのカギは、やはり原油市場が握っていると考えてよさそうだ。
過去2~3年の原油価格の動きを振り返ってみると、新型コロナウイルス感染拡大が促したパンデミックの下、20年にニューヨークの原油先物価格が一時マイナス化したことは記憶に新しい。
結局、20年は年末になっても原油先物価格が50ドル/バレルを回復できず、人々が行動制限を強いられた1年を象徴するような動きが続いた。
翌21年になると、欧米で新型コロナウイルスに効果的なワクチンが開発され、これを受けて人やモノの動きが活発化したことから原油先物価格は大幅に上昇した。
21年後半に景気回復の動きが世界中に広がると、原油需要は大幅に増したのだが、この際、OPEC(石油輸出国機構)プラスが原油の増産を拒んだことで、新たなる原油高要因が浮き彫りとなっている。
原理主義的な脱炭素(脱化石燃料)を進める欧米を快く思っていなかったOPECプラスが、一時的な原油需要増大に伴い欧米諸国が要請してきた増産を真っ向から拒んだ形となった。景気回復に需給逼迫が加わり、21年後半にニューヨークの原油先物価格は80ドル/バレルを上回ってしまった。
22年、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した欧米の対ロ制裁をきっかけに原油先物価格が100ドル/バレルを大きく上回ったのは、「つい先日」のような話である。このようななか、原油先物価格(月中平均)の前年比上昇率を調べてみると、22年12月まで23カ月連続のプラスとなっている。
過去、同様の原油高持続局面を調べてみると、04年3月から06年8月の「30カ月連続」や09年11月から12年3月の「29カ月」などがあるのだが、今次の場合、平均的な前年比上昇率が67.6%となっており、前者の36.1%、後者の27.8%と比べて格段に高い。
値上がりを続ける原油価格が二次的効果を介して財・サービスの物価上昇に寄与し続け、これがコロナ禍に伴う供給制約と相俟って歴史的なインフレを引き起こしたとの考えは、決して誤ってはいないと考えられる。
翻って、70~80ドル/バレルの原油先物価格が続いた場合、23年1月からは原油先物価格の前年比は2年ぶりにマイナスとなる見込みだ。これがすなわちインフレ抑制につながるとまでは言い難いが、前年比マイナスがさらに続くなかで、企業における値上げ行動は収まっていく公算が高い。
また、各国中央銀行の目標である「2%」が遠いにしても、原油先物価格の前年比マイナスによって促されるCPIの前年比上昇率の伸びの鈍化自体には大きな意味がある。次ページ以降、インフレ抑制が米国経済に当たる影響について分析していく。