日本電産 永守帝国の自壊 LEVEL2#1Photo:Kyodonews

創業50周年を迎える日本電産に経営危機が訪れている。2023年3月期通期の最終利益の見通しを1050億円下方修正し、同第4四半期は最終赤字に転落するのだ。業績未達の原因について、同社の永守重信会長は「前経営陣が好き放題の経営をやられて大きな負の遺産をつくった」と説明する。しかし、実態は違っていた。特集『日本電産 永守帝国の自壊 LEVEL2』の#1では、下方修正の元凶となった「ある企業」の内情について明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

永守会長「旧経営陣が負の遺産を作った」
炙り出された意外な真相とは

外部からみえた方々(前経営陣)が非常に好き放題の経営をやられて、大きな負の遺産を作って去っていった。それによって生じたゴミを今期中に全てきれいにする」

 日本電産の永守重信会長は、決算の大幅下方修正に踏み切った背景についてそう言い切った。前社長の関潤氏など外部から登用した幹部らに経営責任を押し付けた格好だ(関氏は2月1日付けで、台湾・鴻海精密工業の電気自動車〈EV〉事業責任者に転じた。その詳細については、『日産自・日本電産出身の関潤氏が台湾ホンハイへ電撃移籍!EV責任者として再挑戦』参照)。

 一方、公式リリースでは大幅な下方修正の理由について、IT機器・家電等のピークアウト、グローバルな自動車生産の停滞、中国ロックダウンによるEV関連製品の生産減速などが記されている。ざっくり言えば、市場環境の悪化こそ業績足踏みの原因とされている。

 事実、創業50周年を迎える日本電産は深刻な経営危機に陥っている。2023年3月期の業績見通しを営業利益ベースで1000億円、当期純利益ベースで1050億円下方修正し、同第4四半期(1〜3月)は144億円の営業赤字、441億円の最終赤字に転落するのだ。ダブルの赤字転落は13年3月期第4四半期以来、ほぼ10年ぶりのことである。

 常務執行役員の佐村彰宣・最高財務責任者(CFO)は「営業利益の(下方)修正分1000億円の約7割が構造改革費用の計上によるもので、その内容は欧州などにおける車載事業に関するものが中心」と説明している。

 実際に構造改革費用として、すでに23年3月期第3四半期に128億円(うち車載は103億円)を計上。追加で「リコールになることを想定して、同第4四半期に500億円くらいを使う」(永守氏)としており、合計すると628億円。佐村氏の発言を勘案すると、23年3月期までに約600〜700億円を構造改革費用として投下することになるようだ。

 そもそも、巨額の下方修正をもたらした“元凶”はどこにあったのか。日本電産の経営陣の説明で分かるのは「欧州」「車載」「リコール」というワードだけで、損失を生んだ病根は判然としない。

 そこで次ページでは、日本電産関係者の証言を基に、リコール費用を積み増す原因となった「ある企業」の存在を明らかにする。永守氏らは業績の足踏みを「前経営陣の失態のせい」と断じてきたが、それとは全く異なる真相が炙り出されることになった。