超円安が急反転した。ドル円相場を米金利サイクル現象と踏まえれば、容易に理解・対応できた動きだろう。日本衰退、貿易赤字、資本逃避など、相場とは筋違いの悪い円安論調を真に受けていたら、相場の潮目は捉えられない。明快な相場なら淡々とメリットとして取り込む構えとロジックがなければ、来るトリッキーな円高サイクルでも割を食いかねない。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)
ドル円相場は米金利に
沿ったサイクル現象である
ドル円相場は、2022年10月の151円台のピークが、130円割れへ急転回した。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」の格言通り、米金利に沿ったサイクル現象として、見事に韻を踏む反転劇となった。
この間、超が付く明快な円安トレンドを生かさない手はないと、米金利に絞って捉えることを推奨した。しかし、日本国内では、相場にほとんど無用な円安論調が横行。それらを真に受けると、ドル円相場の潮目を捉えられないことが危惧された。
案の定、これら円安論調と無関係に反転劇が進みつつある。しかし、今からでも遅くはない。相場力学のロジックを踏まえて、今後に備えていただきたい。
ここまでの基本視座の第一は、ドル円が連動する対象金利が、上昇サイクル初期は米国債10年金利、2021年後半に5年金利、2022年前半に2年金利、最後は政策金利(短期金利)にシフトするとの読みだった。
第二の視座は、利上げ8合目越えと観測されるあたりからは、中長期金利の軟化にドル円が高値波乱を起こしやすいことだった。
背景は、金利狙いで急増する投機ポジションが、中長期金利下落にたじろぎ、利益確定売りから損切り売りへ相場なだれを起こしやすくなることだ。相場なだれは速い。それだけに、相場の力学ロジックを踏まえた逃げ足が肝心になる。
第三の視座は、韻を踏む円相場には、実は「This time is different(今回は違う)」様相があることを指摘した。比較的近い2006~07年の利上げサイクル終盤、ドル円相場はやはり高値波乱になった。
当時は、米景気中立の金利水準5.25%付近で利上げ停止観測が浮上。中長期金利が度々反落し、ドル円も乱高下した。しかし、インフレは比較的低く、金利が景気中立水準を超えるとの見方がない中、投機のドル買い円売りは繰り返され、相場は大きなうねりとなって何度も上値を更新した。
今サイクルの相違は、40年来の高インフレ、景気中立水準を大きく超える利上げで、債券市場はインフレと景気の両にらみで神経質になると見込まれた。為替相場の劇的な変動、深い滑落のリスクを排除できなかった。
以上の視座を踏まえて、これまで流布した役に立たない円安論と今後の相場を見る上で頭に入れておくべき相場のロジックを次ページ以降解説していく。