2月15日は「国際小児がんデー」。日本では2000~2500人の子どもたちが小児がんと診断されているが、医療の進歩によって約7~8割が治療を終えることができるようになっている。しかし小児がんは治すだけでは不十分であり、そして医療現場では切実に資金援助を求めているという。小児がん治療の課題を、国立成育医療研究センター・松本公一先生に聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
「治すだけでは不十分だ」40年前の名医の見識
「cure is not enough(治すだけでは不十分だ)」――これはアメリカの放射線腫瘍医で、小児がんトータルケアの先駆者でもあるダンジョ氏が、1975年に発表した論文に記した言葉である。
「ダンジョ先生は私が最も尊敬する医師の一人です。40年以上も前に、既にこうした見識を持っていたというのはすごいことだと思います」
国立成育医療研究センターの松本公一センター長は、ダンジョ氏の先見の明をこう讃えた。松本氏が言うように、かつて小児がんは「不治の病」であり、生命を助ける治療が何よりも優先されていた時代があった。
「病気を治すことだけを優先して、抗がん剤や放射線をガンガン使っていた時代がありました。そうやって治癒した人たちが今、二次がんや心臓などの臓器障害や低身長、学習や仕事に支障が出る認知機能障害、不妊症などの晩期合併症(晩期障害)に見舞われることが問題になっています。子供たちを何とか助けようと一生懸命治療していたら、新しい病気を作ってしまったわけです。現在、小児がんの8割は治りますが、そのなかの大体4割ぐらいに、何らかの合併症が起きるといわれています」
小児がんは発見が難しく、がんの進行も極めて速いものがある半面、成人のがんと比較して化学療法や放射線療法の効果がかなり高く出ることから、この数十年の医療の進歩によって、現在では約7割~8割が治るようになっている。晩期合併症が問題になるのも、生存率が高まった結果だが、治癒後も長い人生が待ち受けている子供たちだからこそ、元気に生きていけるよう、よりよく治すことが大事だというのが、松本氏始め現場の小児血液・腫瘍科医たちの想いだという。晩期合併症は大きな課題になっている。