“出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法

「人的資本経営」のカギを握る「アルムナイ」。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係を築いていくかは、人材の流動性がますます高まるこれからの時代において重要だ。アルムナイ専用のクラウドシステムを提供するなど、アルムナイに関する専門家である鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)が、企業の「辞められ方」、従業員の「辞め方」を語る連載「アルムナイを考える」――その第4回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ

退職した人が古巣に再入社する「出戻り」が増加傾向

「出戻り」という言葉にネガティブなイメージを持たれる方は多いのではないでしょうか? もともとは、「一度出かけて“途中”で戻る」という意味であることから、嫁いだ女性が離婚して生家に戻る時などによく使われていた言葉です。それが転じて、さまざまな理由で会社を退職した社員が再入社をする時に「出戻り社員」と呼ばれるようになりました。ネガティブなイメージが強い背景には、離婚をして実家に戻ることであったり、退職すること自体や一度退職をしたのに再入社をするということが世間一般で“失敗”と捉えられていたことがあります。

 時代とともに、結婚における離婚や、キャリアにおける退職に対するイメージも大きく変わり、昔ほどネガティブなものではなくなりました。退職した人が古巣に再入社する「出戻り」も増加傾向にあります。しかし、再雇用する企業側にも、再入社する個人側にも、「出戻り」に対してネガティブなイメージや不安を持つ人はまだいるでしょう。それでも、「カムバック採用」「ジョブリターン制度」「ブーメラン社員」「アルムナイ採用」などと呼び方が多様化しながら、「出戻り社員」が増加しているのは、企業にとっても個人にとってもメリットが多いからです。

 厚生労働省が公表しているデータ*1 によると、2022年12月の有効求人倍率は1.35倍で1年前と比べて0.19ポイント増加しました。コロナ禍で2020年から2021年の有効求人倍率は大きく下がったものの、経済活動の正常化に伴い、有効求人倍率も急激な回復傾向にあり、多くの企業が人材不足に苦しんでいます。また、このような経済環境とは関係なく、DX人材やIT人材などの不足は多くの企業にとって恒常的な課題となっています。

*1 厚生労働省 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)

 そのような日本社会全体の課題とも言える人材不足を背景に、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用といった採用手法が多様化し、そのなかで企業が注目したのが、企業側にとってメリットが多い“退職者の再雇用”です。2000年代頃から退職者の再雇用に取り組む企業は少なくありませんでしたが、多くの企業が結婚や出産などのライフイベントを理由に退職した人のみを対象にしており、転職や起業などを理由に退職した人はこのような再雇用の取り組みの対象外でした。それが、この数年で大きく変化し、転職や起業などを理由に退職した人の再入社も歓迎する会社が急増しました。