ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏 Photo by Takeshi Kojima

孫正義氏の右腕としてソフトバンクの社長室長を務めた筆者が、キャッシュレス決済サービス「PayPay」急成長の秘密を分析します。PayPayは、孫正義氏が得意とする「数値化仕事術」が、さらに戦略まで高められた「孫正義の3次元経営」による成功事例だったのです。【前後編の前編】(トライオン代表取締役 三木雄信)

「PayPay」急成長の秘密

 ソフトバンクのグループ会社であるPayPay株式会社は、2023年2月7日にキャッシュレス決済サービス「PayPay」の登録ユーザーが5500万人を突破した(23年2月6日時点)と発表しました。日本の人口の約2.3人に1人、日本のスマートフォンユーザーの約1.7人に1人がPayPayを利用していることになります。18年10月にPayPayのサービスをスタートしてから5年弱で、決済を担う新たな「社会インフラ」の一つになったといえるでしょう。

 PayPayの急成長は、ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏が得意とする「数値化仕事術」(数値化によって仕事の問題を高速で解決するための技術)が、さらに戦略まで高められた「孫正義の3次元経営」による成功事例だと考えます。

 詳細は後述しますが、この「3次元経営」によって、日本のヤフオク!(旧称Yahoo!オークション)も中国のアリババグループも成長してきたのです。私は実際に、孫正義氏がヤフーの経営陣やアリババ創業者のジャック・マー氏にアドバイスするのを横で見聞きしていたのですから間違いありません。

 私はそうした経験を元に、数値化仕事術を経営者として自社の経営に活用するだけでなく、本にまとめたり、あるいは社外取締役としてスタートアップから上場企業までアドバイスしたりしてきました。しかし同時に、この数値化仕事術を実行するのは簡単ではないことも痛感してきました。

「数値化メタボ」が起きている!

 特に近年は、その思いを強く感じています。理由は、経営状態を示す数値が急速に増えてきているからです。「数値化メタボリックシンドローム」といっても過言ではありません。

 その背景として現在、マーケティングや人事をはじめ経営に関するあらゆる側面をサポートするツールが、SaaS(Software as a Service)として導入されています。また、インターネット広告に関して代理店を活用している会社も多いでしょう。このようなSaaSや代理店が、こちらから頼むまでもなく、さまざまな数値データを提供してくれます。

 ところが、多くの企業ではこれらの数値データをうまく活用できていません。なぜでしょうか?