空前の中学受験ブームの陰で、中学受験のコスパ、タイパの悪さも指摘され始めている。特集『わが子が伸びる中高一貫校&塾&小学校』(全29回)の最終回では、中学受験を目指す真の意義を考察する。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)
最難関大学合格だけが目的ならば
中高一貫校はコスパ、タイパが悪い
中学受験のメリットとデメリットを教えてほしいというインタビューを受けることがよくあり、毎度、困惑する。
結婚のメリットとデメリットを説明せよと言われても、人によるとしか答えようがないのと同じだ。中学受験を経験したとしても、何をメリットと感じるか、デメリットと感じるかは千差万別。その違いにこそ、人それぞれの教育観、人生観が表れるのだ。
最難関大学への進学を目的にするならば、そのためのノウハウが蓄積された有名進学校の狭き門に挑まなければいけない。競争は過酷なものとなる。ただし、それならば、中学受験する必要性は実は低い。中学校や高校に行く代わりに、最難関大学受験専門の塾にだけ通って、一日中その課題に取り組むのが最もコスパ・タイパが良いと考えられるからだ。そんな生活に耐えられれば、であるが。
また、世界を股に掛けて活躍できるグローバルなビジネスパーソンになることを目的とするならば、英語教育に力を入れるのはもちろん、ビジネスパーソンとしての各種スキルを磨くプログラムを豊富に取りそろえている学校に魅力を感じることだろう。
インターネットやタブレット端末を用いたICT(情報通信技術)教育は当たり前。さらに、「グローバル教育」「STEAM教育」はいまや多くの学校のパンフレットの決まり文句になっている。ただし、どこも似たように見えるし、これだけ「先行き不透明な時代」といわれているにもかかわらず、「これからの時代にはこんな力が求められる」という理屈を振り回すこと自体に矛盾を感じなくもない。
新しいビジネススキルが次々生み出され、流行の思考法だって移り変わりが速いこの時代に、ビジネスパーソンとしての“先取り教育”を行うことにどれだけ意味があるのか、甚だ疑問だ。
しかも、どんなによくできた教育プログラムを用意したとしても、設計者の狙い通りの成果が得られるとは限らない。むしろ狙い通りになることの方が少ないことは、実際に教育現場を見て回れば明らかだ。人間は複雑な生き物であるから、インプットとアウトプットが一定にはならない。そこがコンピューターと違う面白さであり、教育という営みの醍醐味だ。
加えていえば、最難関大学を目指すにしてもグローバル人材になることを目指すにしても、高校からだって遅いはずがない。ではなぜ中学受験するのか。分かりやすい理由は、高校受験を回避するという1点に尽きる。