市場では日銀が早期に
緩和修正の見方も根強い
日本銀行による金融緩和修正への期待が高まる中で、植田和男新総裁の就任記者会見が4月10日に行われた。植田氏は2月の国会所信聴取と同じく、「2%の物価安定目標の達成をする総仕上げの5年にしたい」と繰り返した。そして、同目標が実現するまでは大幅修正や正常化に動く可能性を否定し、現状維持を強調した。
4月12日のG7財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見においても、「日本の物価状況は他国とはだいぶ異なる」「2%が下回って物価目標の達成が遠のくリスクに焦点を当てるのが適切」と発言し、現状維持を強調した。
また、3月以降の欧米での銀行問題により、海外だけでなく日本の長期金利も低下したことで国債市場の「ゆがみ」が改善された点も指摘。長短金利操作の持続性が高まったことを示唆した。
所信聴取や就任会見でも、「国債市場の機能を注視していくし、緩和が長期化すれば副作用に配慮する」と発言したものの、その「配慮」が昨年12月のような変動幅の拡大を含むのかが明確にはならなかった。この曖昧さは、今後の市場との対話で課題になるであろう。
今年に入ってから、日本を取り巻く世界経済情勢は芳しくない。世界では地政学リスクの高まりもあり、製造業を中心に景気が減速しつつある。
米国では、今年3月に発生したシリコンバレー銀行の破綻を契機とする地域銀行からの預金流出や、金融安定への懸念が高まった。その後、落ち着きを取り戻したものの、銀行の資金調達費用の増加のほか、企業・家計や商業不動産関連への融資基準の厳格化が景気を下押しするとの懸念が高まっている。
欧州でもスイスのクレディ・スイスの破綻により、金融環境の悪化が懸念されている。中国については、昨年末からゼロコロナ対策が撤廃され、大幅な景気回復が期待されているが、今のところ消費や住宅投資の回復は緩慢だ。こうした状況下で、日本でも製造業中心に景況感悪化や緩慢な鉱工業生産活動に直面している。
しかし、2%インフレの安定的実現が見通せない状態でも、市場では、日銀が早期に緩和修正を行うとの見方が根強い。
本稿では、その二つの背景を踏まえた上で、日本経済の構造的な課題や、人手不足と需給ギャップの関係、2%物価安定目標の実現可能性、また金融政策決定でサプライズをつくることの是非を中心に、日銀の政策の方向性について論じていく。