資産運用の利益といえば、「キャピタルゲイン(値上がり益)」と「インカムゲイン(配当や利息など)」の2本柱となる。しかし、富裕層は一般投資家がリーチできていない「第三の利益」を積み上げていた。それを実現する投資手法こそ「オプション取引」だ。そしてこの金融サービスが、日本で本格的に花開こうとしているのだ。特集『シン富裕層の投資・節税・相続』(全24回)の#10では、その最新状況をレポートするとともに、オプション取引を活用した投資術を先取り解説する。(Oxford Club Japanチーフ・ストラテジスト 志村暢彦)
値上がり益や配当・利子とは別の収益源
富裕層が狙う「第三の利益」
「かば子」というキャラクターをご存じだろうか?2011年に東京証券取引所が株式オプションのイメージキャラクターの一つとして採用した、いわば日本におけるオプション取引のけん引役だ。
ただ残念ながら、日本における個別株のオプション取引は非常に低調で、お世辞にもキャラクターが定着したとはいえない。そもそも取引が可能な証券会社がかなり限定され、個人投資家に向けた市場としては低空飛行が続いてきた。
時がたち、20年。デンマークに本拠を置くサクソバンクの日本法人、サクソバンク証券が、その流れを変える画期的な新サービスを立ち上げた。日本で登録を受けたオンライン証券会社として初めて、グローバル株式のオプション取引サービスの提供を開始したのだ。
そもそも日本に根付いていない概念の取引のため、社会的に大きなニュースとはならなかった。しかし、日本の個人投資家が、日本においてグローバル基準の取引ツールを手に入れた瞬間といえる。
日本における入出金でグローバル株のオプション取引を完結させる――。これを実現したサクソバンク証券の新サービスが与えたインパクトは大きい。
それまでも、日本でオプション取引をはじめとするハイレベルな各種取引を実践する投資家は少なからず存在した。そうした投資家は、米国で大きな取引量を誇るオンライン証券、インタラクティブ・ブローカーズの日本法人、インタラクティブ・ブローカーズ証券の米国口座を活用していた。
ところが現時点では、日本から同社の米国口座の機能を活用する道は閉ざされてしまった。
日本で目前に迫るオプション取引元年
波に乗り遅れるな
そして23年。サクソバンク証券以外でも、日本において、スマートフォンやパソコンを使ったグローバル株式のオプション取引が可能になろうとしている。国内の証券会社が静観する中、外資系証券会社が今まさに着々と準備を進めているのだ。
いよいよサクソバンク証券に続く、「第二の幕開け」が見えてきた。日本における「オプション取引元年」は目前に迫っている。
今、資産を拡大させている「伸び盛り富裕層」は、世界の投資対象に目を向け、時代を先取りする「ボーダレス投資家」だ。そんな彼らの資産形成における強力なツールとなることは間違いない。
今後、伸び盛り富裕層の「相棒」となり得る外資系証券をまとめたのが、下表だ。
今まで名前を挙げた2社以外で特に注目に値するのが、ウィブル証券だ。
「ロビンフッド」という投資アプリの名前を耳にしたことがある読者も多いだろう。「取引手数料無料」を武器にする、米オンライン証券のロビンフッド・マーケッツが提供するアプリだ。
新型コロナウイルス感染拡大下で景気対策の給付金を手にした米国のミレニアル世代の支持を集め、愛用された。
当時は、オンライン掲示板で特定の株をもてはやしたり、けなしたりして、価格の急騰・急落を引き起こす、いわゆる「ミーム株」が社会問題化した時期でもある。その時期に、ロビンフッドを使って投資をする人々が増え、米国の投資家層は拡大した。
そのロビンフッドの競合として急成長を遂げたのが米ウィブル・フィナンシャルだ。そして同社は世界戦略を見据え、日本でもグローバル株の取引サービスを開始。日本法人のウィブル証券の機能拡充が期待される。
では、新たな幕開けとなる個別株のオプション取引とは何だろうか?初級の投資家でも分かるように易しい説明を試みつつ、中級以上の投資家にも役立つ、伸び盛り投資家が実践している資産運用術をご紹介したい。
「オプション取引」といわれると、「難しそう」と感じたり「危なそう、リスクが高そう」というイメージを持ったりして身構える読者もいるかもしれない。しかし、安心してほしい。
オプション取引の使い方は人それぞれで、組み合わせて使うことで、多くの投資家のニーズにマッチした損益シナリオを作ることが可能となる。ここでは、次の3点を意識した活用アイデアをご紹介したい。
(1)現物株取引のリスクを下げる
(2)現物株の投資からのリターンを上積みする
(3)シンプルで手掛けやすい