インフレ抑制のために、日本以外の主要国の中央銀行は利上げを継続してきた。ここにきて利上げを停止する動きも出始めた。結果として、日本銀行の政策修正見送りの公算が大きくなっている。それでも円が買われる理由について解説する。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
利上げ停止の動きも出る中
継続が確実視されるECB
4月19日に公表された米地区連銀経済報告では「複数地区で労働力の供給が増加し、逼迫感が薄れている」とされ、雇用関連統計において見られ始めた労働需給緩和に平仄(ひょうそく)を合わせる内容となった。
他方、需要サイドについては「個人消費は総じて横ばい、ないし若干減少」とされており、「消費者物価の上昇は依然強い需要が要因」ともされている。
3月の米小売売上高では、特に労働需要が強いサービス業(飲食店)の売上高が2月対比で小幅に上昇したことが確認されたが、今後のインフレ鎮静化に向けては改めて需要の伸び鈍化が重要な役割を果たすと考えてよさそうだ。
注目は「不確実性の高まりと流動性を巡る懸念を背景に、銀行が融資基準を厳格化したと指摘する地区連銀が数行あった」と記述された点であろう。
シリコンバレー銀行(SVB)破綻を端緒とする金融不安は、米連邦準備制度理事会(FRB)の資金供給などによってほぼ完全に収束したが、信用収縮がゆっくり時間をかけて実体経済をむしばむ可能性が高いことが示唆されている。
貸し出し態度厳格化は債務拡大ステージに入った家計の消費減に寄与するほか、貸出金利上昇を介して総じて経済全般に利上げ効果をもたらす公算が大きい。
3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、こうした信用収縮が利上げの効果をもたらすとされ、5月での利上げ打ち止めが示唆されたが、今回の地区連銀経済報告によって、その可能性は高まったと言えそうだ。
他方、クレディスイス救済劇が繰り広げられたものの、欧州において信用収縮やそれに伴う景気減速は現時点で大きな問題となっていないもようだ。22年末からの「暖冬」に支えられた堅調な消費も現時点では明確に落ち込んでおらず、こちらは実質政策金利の上昇を企図する欧州中央銀行(ECB)によってまだまだ利上げが続く公算が大きい。
オランダ中銀のクノット総裁が「利上げはもちろん終了していない」としたうえで、その根拠について「ユーロ圏のコアインフレは現在6%近い。3%の金利では対抗できない」と話したのだが、米国でも22年春以降の低過ぎる実質金利が消費とインフレを押し上げてきただけに、ECBも実質金利の押し上げを意識していると考えられる。
ECBだけが利上げを継続していく中、ユーロ相場は今後どうなるか。主要国で唯一利上げをしていない日本銀行の金融政策動向の行方と円相場の見通しとともに次ページ以降検証していく。