[激変]生保・損保・代理店 保険大国の限界#9Photo by Akio Fujita

大手や外資系の生命保険会社に所属する一社専属の営業外務員が、乗り合い代理店に移籍する事例が多発している。そうした中、代理店のリクルート支援に積極的な東京海上日動あんしん生命保険が、新たな「引き抜き」スキームを導入した。特集『[激変]生保・損保・代理店 保険大国の限界』(全22回)の#9では、その中身を明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

一社専属の保険外務員の移籍続々
あんしん生命の新たなスキームにも注目

 大手生命保険会社や外資系生保会社で活躍してきた成績優秀な保険外務員が、乗り合い代理店に移籍する事例が後を絶たない。

 本特集の#7『ソニー、プルデンシャル、日本生命を辞めて代理店に転じた現役営業職員が暴露する「私が古巣を見切った理由」【座談会】』の通り、自身が所属する保険会社の商品しか取り扱えない一社専属のままでは、顧客への提案には限界がある。故に、顧客ニーズを満たせないというジレンマを抱えた保険外務員たちが、続々と複数の保険会社の商品を取り扱う乗り合い代理店に移籍している。

 本稿でも別の事例を紹介するとともに、それら保険外務員たちの代理店への移籍を支援している、東京海上日動あんしん生命保険の新たな「引き抜きスキーム」について述べていこう。

 まずは、第一生命保険の元営業職員が大手乗り合い代理店に移籍した事例だ。

「第一生命を辞めた要因の一つは、山口県で起こった元営業職員の金銭不祥事です」

 そう話すのは、長年、第一で優秀な成績を上げ続けてきた元営業職員だ。現在は第一を辞し、全国展開する大型乗り合い代理店に所属している。

 第一の山口県の不祥事といえば、2020年10月に発覚した、89歳でトップクラスの優績者であった元営業職員が約20年間にわたり、約19億円にも上る金銭を不当に詐取していたという事案だ。

 これ以降、第一は優績者への特別な称号の付与や特別待遇をやめた。優績者の中には直接、社長や役員など経営幹部と連絡が取れる関係にあったことなどから、第一の社員たちが優績者に忖度してしまい、ガバナンスが効かなかったことが不祥事の理由の一つと考えたためだ。

「これまで応援してくれていた社員さんたちの態度が、あからさまに変わりましたね」と、元営業職員は言う。だが極め付きは、記者会見での当時の社長の発言だった――。

「表現は良くないかもしれませんが、営業職員のことを『性悪説』に立ってしっかり管理する必要があります」

 性悪説とまで言われては仕方がない。その他の理由も相まって潮時だと感じた元営業職員は、乗り合い代理店への移籍を決意した。そして旧知の代理店社長に相談した後、複数の代理店からオファーを受け、待遇や報酬体系、コンプライアンスの管理などで最適と判断した現在の代理店に決めたという。

 改めて前職について問うと、「今までよくやってきたなと思いますね。『お客様第一主義』を掲げていますが、あの商品ラインアップでは難しい。一社専属ではお客さまに満足な提案はできません。ですが、長らくその世界しか知りませんでしたから」と苦笑する。

 もっとも、いいことばかりではない。代理店に移籍すれば、これまで獲得した契約者を置いていくことになるため、これまで得ていた多額の報酬を捨てることになるからだ。第一では、営業職員が退職すると既契約者に通知を送り、担当の営業職員が退職したことと、今後の新しい連絡先を伝えているという。法人契約もしかりだ。

 加えて、この元営業職員のように自らのつてを辿って代理店に移籍できる人は少なく、転職サイトや転職エージェントなどを使うか、先に代理店に移籍した前職時代の同僚を頼ることが多い。中には、生保会社で代理店を担当している営業担当者が移籍を支援する場合もある。

 その支援に積極的なのが、東京海上日動あんしん生命保険だ。そのあんしん生命が今年4月、グループ会社の東京海上日動キャリアサービス(TCS)と組んで新たな仕組みを作ったことが話題となっている。次ページでは、あんしん生命がリクルート支援に励む背景や、TCSを活用した「引き抜きスキーム」について詳述しよう。