トヨタ自動車は日本企業として初となる営業利益3兆円を達成する見通しだ。だが絶好調決算の裏では、重大な財務危機が迫っていた。特集『決算書で読み解く! ニュースの裏側2023夏』(全27回)の#17では北米偏重の電気自動車(EV)投資が招く危機の正体を独自試算で明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
米国インフレ抑制法が招く
トヨタ“ドル箱”崩壊の危機
5月10日、トヨタ自動車は佐藤恒治“新社長”の就任後初となる本決算発表を行った。その場で開示された2024年3月期の業績見通しは、売上高38兆円、営業利益3兆円。実現すれば日本企業として前人未到の偉業を達成することになる。
だがそんな歴史的な絶好調決算にも、トヨタ経営陣に浮かれている様子はみじんもない。むしろ、電気自動車(EV)関連の投資競争の勃発に戦々恐々としているようだ。
決算発表に先立ち、トヨタは「26年までにEV150万台を販売する」と、当初の販売目標を実質的に引き上げた。米テスラが10年余りをかけた台数をわずか3年で達成するという野心的な計画である。
発端は、昨年成立した米インフレ抑制法(IRA)に盛り込まれたEV優遇策にある。北米で製造されたEVを購入するユーザーに、最大7500ドル(約107万円)を税額控除するというものだ。
税制優遇を受けるためには、車両の北米での組み立てに加えて、EVに使用される電池や重要鉱物を北米で調達する“現地化要件”を満たさなければならない。世界の自動車メーカーからすると、EV関連のサプライチェーン(供給網)を丸ごと北米へシフトしなければ、販売面での優遇策を享受できないということだ。
EV関連のサプライチェーンでは圧倒的に中国が強く、日本や韓国は部材・組み立てで一定の存在感を持つ。サプライチェーンが脆弱な米国は、世界最重要というマーケットの魅力を武器にEV・電池の外資メーカー(中国は除く)を誘致し、劣勢をはね返そうと躍起になっているのだ。
その効果は絶大だった。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストによれば、米国、欧州、日本、韓国の大手自動車メーカー10社により、28年までに20兆円を超えるEV電池投資が北米で実施されるという。
もちろんトヨタにとっても、北米は世界販売の4分の1(240万台)を占めるドル箱市場。EVの販売目標を達成するためにも、主戦場での地位を堅持するためにも、北米への投資を積み増さなければならなくなった。31年3月期まで年間8000億円もの設備投資が北米に集中して実行されることになりそうだ。
それでは、北米偏重のEV投資はトヨタの財務にどの程度のネガティブインパクトを与えることになるのか。ダイヤモンド編集部では、トヨタの業績に与える影響を独自試算により導き出した。
次ページでは、北米EV事業が赤字に転落するという驚愕の試算結果を「赤字の実額」とともに大公開する。