前期は三菱商事と三井物産の純利益が1兆円を突破。瞬間風速という声もあるが、専門家は資源バブルがなくても総合商社の「実力値」が底上げされてきていると指摘する。果たして今後5年間の勢力図とは。特集『日本再浮上&AIで激変! 5年後のシン・業界地図』(全16回)の#14では、資源に強い三菱商事、三井物産と非資源で利益を伸ばす伊藤忠商事など各社の戦略を解説。各社の株主還元策やダークホース候補についても紹介する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
業績、年収とも過去最高水準の
総合商社に上値余地はあるのか
「総合商社の上昇相場に乗り遅れて手を出せなかったが、その水準からも大きく上昇してしまった」――。株価が高値更新を続ける三菱商事を買えなかった個人投資家の嘆きだ。
三菱商事と三井物産の純利益が「1兆円を突破」するなど、2023年3月期の総合商社は空前の好業績だった。株価も2年前比で倍以上になるなど、総合商社はわが世の春を謳歌している。
一方で、前期の業績は資源バブルの恩恵を強く受けたという声も多い。冒頭のように「今から買っていいのか」と悩んでいる投資家も少なくない。
総合商社は海運や半導体、鉄鋼などの業種と同様に「シクリカル」セクターに分類されている。シクリカルとは景気の循環的な変動のことで、過去の総合商社は資源価格次第で利益の変動幅が大きく、業績ピークで株を買うと高値づかみになりやすかった。
ただし、この点については「総合商社は変貌しつつある」とみる専門家が多い。
UBS証券の五老晴信アナリストは「前期が『追い風参考値』だったこともあり、各社とも今期は減益を見込んでいる。一方で、資源価格が落ち着いても、数年前よりは高水準の利益を維持できる体質になっている」と指摘する。
大和証券の商社・資源担当の永野雅幸シニアアナリストも「『脱炭素』『脱ロシア』により、資源価格はシクリカルではなく、むしろ上昇しやすい」と分析する。
ビジネスパーソンにとっても総合商社は高根の花的な存在である。もともと総合商社は高給で知られているが、主要5社平均の平均年収は5年前の1410万円から1731万円に一段と上昇。
5社の平均年収は全て1500万円を突破し、最も高い三菱商事の平均年収は1939万円。5社とも上場企業約4000社の中で上位0.5%以内にランクインしている。
業績、株価、年収……、さまざまな面で総合商社の注目度はかつてないほど高いが、果たして今から5年間はどんなシナリオが待ち受けるのか。
次ページでは総合商社の資源バブル崩壊後の「本当の実力値」や、各社の事業戦略、株価を占う重要指標についてトップアナリストが分析。すると5年後を見据えた、五大商社の明暗がくっきりと浮かび上がってきた。気になる株主還元方針や最高水準の年収比較、意外なダークホース銘柄についても紹介する。