昨年は円安要因として貿易収支の赤字が挙げられることが多かった。しかし、今年に入ってはあまり聞かなくなった。現在のドル円相場は日米の実質金利差が左右する。年初からの日本の実質金利の顕著な低下が円安のドライバーとなっている。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
円安要因と言われなくなった
日本の貿易収支の赤字
FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げが7月以降も継続されるとの思惑などを背景に、ドル円は久しぶりに145円の節目に到達した。
115円近傍でスタートした22年のドル円が120円台、130円台を一気に駆け上がったのはちょうど1年前であったが、当時、ドル円の上昇要因としてうたわれていたのは原油高に伴う本邦貿易赤字の拡大であった。
「実需の円売りが主導」と評された円安はその後も続き、遂にドル円は150円台に乗ることになったのだが、その後、本邦政府による9兆円規模の為替介入をきっかけに下落に向かった。
再度の為替介入も意識されやすいレベルまでドル円が上昇したことになるのだが、足元で原油高や貿易赤字をその根拠とする声は乏しく、市場参加者の多くが口にするのは日米の金融政策の差である。
つまり、利上げに向かう米国と、日銀が慎重姿勢を継続する我が国の金融政策の差によってドル高円安が生じているというのだが、貿易赤字の問題はどこに消えたのだろうか。
次ページ以降、SMBC日興証券が計算したドル円の実需フロー推計値を基に、昨年来の円安要因を検証するとともに、足元の円安要因を分析する。