長期金利の指標である米10年国債利回りの今夏における上昇は実質金利上昇による部分が大きい。一方、日本は物価上昇による期待インフレ率が高まるなか、実質金利上昇は望み難くドル高の要因となっている。円高への反転は米金利低下主導でしか望めず、2024年が最後の円高局面となる可能性もある。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
10年国債利回りの上昇もたらした
実質金利上昇の理由は?
8月22日の時間外取引で一時4.36%台を付けた米国10年債利回りだが、ここもと、やや弱めの経済統計が公表されるなかで低下傾向となっている。
今夏の米国10年債利回りの上昇については、利回りの2つの構成要素のうち、インフレ期待(ブレークイーブンインフレ率、BEI)ではなく実質金利の上昇に牽引されたところが多く、米日10年実質金利差との連動性が高いドル円の上昇にも寄与している格好だ。
実質金利には2つの側面が存在するが、今次の米国10年実質金利の上昇がいかなる思惑によって生じたかについては意見が分かれるところである。
まず、実質金利は中央銀行の金融政策への思惑を反映しやすく、つまり、高い政策金利が長く続くとの思惑が強まれば、より長めの実質金利は上がりやすい。
例えば、2年間にわたり「高い短期金利(実質金利)が続く」との思惑が強い場合、当然のように2年実質金利は上昇する。2年実質金利上昇が5年、10年といった長めの実質金利の上昇に波及すれば、結果として10年実質金利も上昇するわけであり、つまり、足元の10年実質金利は政策金利の“Higher”&“Longer”への意識の高まりによって生じている可能性が高い。
他方、実質金利は当該国の実質潜在成長率に等しいとの見方もある。そのような観点からは、今次の米国10年実質金利上昇について、「米国の自然利子率上昇によるものである」「米国の中立金利が上昇したためである」との見解も生まれやすい。
つまり、米国10年実質金利が2%をトライするということは、米国の実質潜在成長率(均衡実質利子率、1%かそれ以下と目されてきた)が2%以上であり、さらにそれが持続するということを予想するに等しい。
米国経済から実質ベースで2%以上のリターンを得られ続けると考える投資家はあえて米国債を買わず、実体経済に投資をするはずであるとの思惑が米国債市場で広がっているとも換言できそうだ。
実質政策金利高止まり長期化と潜在成長率上昇のどちらが10年の実質金利上昇をもたらしているのか。次ページ以降検証する。