日本には、中国にはない「おもてなし」がある――サービスの質の高さに期待して訪日する中国人訪日客は少なくないが、最近は旅行中に遭遇する“塩対応”にショックを受けているという。そこにあるのは、日本全体にしみ込んでしまった“中国嫌い”だけではなかった。ポストコロナの接客最前線を追った。(ジャーナリスト 姫田小夏)
中国人観光客「日本のサービスは質が落ちた」
中国からのインバウンドは、今年春ごろから復活の兆しを見せ始めていた。5月は10万人台、6月は20万人台、7月は30万人台と中国人訪日客の数は毎月大台を更新し、8月には団体旅行も解禁された。
こうした中、多くの中国人訪日客を当惑させているのが、ポストコロナの“塩対応”である。8月24日に開始された福島第一原発の処理水の「海洋放出」の前から、彼らは微妙な変化を感じ取っていた。
東京を拠点にインバウンド観光に従事する上海出身の徐偉明さん(仮名・50代)は、中国人訪日客が残した感想を次のように話している。
「リピーター客は、日本の物価上昇に驚いたというコメントを口にしますが、それ以上に私が意外だと思ったのは『コロナ前よりもサービスの質が落ちた』という意見です」
「おもてなし」を標榜(ひょうぼう)する日本で「サービスの質が落ちた」というのは、どういうことなのだろう。徐さんは「最もわかりやすい例」として、中国人訪日客によるSNSへの投稿を取り上げた。
それは、一泊1万元(約20万円)以上の京都の高級ホテルに宿泊した中国人訪日客が自身の体験を詳細に描写したものだった。大まかな内容は以下のとおりだ。
「京都の国際ホテルAは、小さいながらもブランドを誇りにする宿泊施設ですが、私は差別されたと感じました。庭には茶室があるのでフロントで予約の可否を尋ねましたが、『できません』というぶっきらぼうな回答でした。高級ホテルと宣伝しながらも従業員教育すらままならならず、その態度を見れば、言葉が通じなくても、私が歓迎されていないことは明白です。高額な宿泊代を払って受ける差別的待遇に加え、チェックイン・アウト時でさえ送迎のホスピタリティーもありませんでした」
中国人訪日客が滞在中に感じた「自分は歓迎されてないのではないか」という落胆は看過できない。
また、新宿を訪れていた中国人訪日客が「海洋放出に反対する中国人が行った“日本への迷惑電話”への報復を受けているみたいだ」と話すように、平和産業であるツーリズムにも、昨今ますます「反中感情」が影を落とすようになった。