後悔しない「歯科治療」#1Photo:scyther5/gettyimages

ワイヤーを使用した従来の歯列矯正よりも「安い」「手軽」と近年若者を中心に支持が広がっているマウスピース矯正。今年5月には、陸運大手のヤマト運輸がマウスピースの製造を開始した。しかし、このニュースに日本矯正歯科学会が「重大な懸念」という異例の声明を発表。特集『決定版 後悔しない「歯科治療」』(全23 回)の#1では、専門家たちが警鐘を鳴らす、「安い」「手軽」の裏にある闇に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

クロネコヤマトの新事業に
矯正医師会が大ブーイング

 今年5月、陸運大手のヤマト運輸が「歯科ベンチャーのDRIPSと協業し、矯正歯科治療に使用するマウスピースの製造と配送を開始する」と発表した。

 マウスピースによる矯正治療は、これまで主流だったワイヤー矯正と比べて「安い」「矯正具が目立たない」「治療期間が短く済む」として、近年若年層を中心に支持を集めている。

 元祖は米国のアライン・テクノロジーが1997年に開発した「インビザライン・システム」で、日本で販売開始されたのは2006年。現在では後続勢が次々と登場し、今回ヤマトと組んだDRIPSもその一つで、「hanaravi」というマウスピース矯正治療サービスを提供する19年創業の医療ベンチャーだ。

 リリースによれば、これまでは海外に製造を発注することが多かったマウスピースを、ヤマトの物流拠点に設置した3Dプリンターで生産し、配送も担うことで時間・コストを抑えられ、患者にとって治療の利便性が向上するという。

 これまで零細なベンチャーばかりが跋扈していたマウスピース矯正業界だが、コロナ禍で「マスク生活のうちに」と歯科矯正の需要が高まったところに、今回名の知れた大手企業が進出したことでこのニュースは大きな話題を呼んだ。しかし、思わぬところから待ったがかかった。矯正治療における日本最大の学術団体、日本矯正歯科学会(日矯)がこのリリースに対して専門的見地から「重大な懸念」を表明する異例の声明を出したのである。

「ヤマトという国内でも有数の大手企業によって『お墨付き』が与えられては困る」(矯正専門クリニックを営む30代歯科医師)というわけだ。

 これまでよりも矯正が安価かつ治療期間の短縮で、患者の利便性は向上するように見えるが、一体何が問題なのか。それは、このサービスが「歯科医不在」で矯正治療が行われてしまう危険性をはらんでいることだ。