「ヘルパーさんは高くて雇えない」、家族にのしかかる介護

 今回取り上げるのは、一級都市と言われる中国・上海での話だ。介護保険制度が緒に就いたばかりの上海で、中間層の人々が直面する在宅での介護の実情である。

 2021年春、上海在住の汪さん(仮名)は70歳で他界した。病名はパーキンソン病で、2000年代終盤から悪化し始めた。全身の筋肉が硬直する病気で、徐々に動作が緩慢になり、便秘や頻尿になるともいう。難しい病に苦しむ夫を介護したのは妻の黄さん(仮名、中国では夫婦別姓)で、いわゆる「老老介護」である。

 汪さんが亡くなる3年前から、黄さんは壮絶な介護の日々を送っていた。2018年、パーキンソン病の症状改善を期待して「脳深部刺激療法」を選択。医者の勧めで30万元(約600万円)する米国製の機器を購入し、皮下に埋め込む手術を行った。

 中国の医療保険制度では、30万元のうち5万元が保険適用になり、黄さんの息子が残り25万元(約500万円)を自費で負担した。ところが後になって機器はうまく取り付けられていなかったことが判明する。しかし医者は「体は人それぞれ違う」とけんもほろろだった。これだけ発展した中国でも、中間層にとっての安心できる医療は程遠い状況だ。

 2019年、汪さんの症状はさらに悪化し、食事は鼻から管を入れて栄養を送り込む「経管栄養」に切り替わった。服薬の錠剤をつぶし、注射器を使って管に注入するのも黄さんの仕事で、黄さんは「とても面倒だ」と音を上げた。中国では看護師の仕事の範囲は限定的なのだ。

 また、中国は日本と異なり完全看護ではなく、家族が付き添い、身の回りの世話を行うのが通例だ。家族ができない場合は、ヘルパーを雇い、体の洗浄、寝返り、排便などの対応をしてくれるが、問題は人件費の高さだ。