人材不足に備え、家族が「有償で家族を面倒見る制度」も
汪さんが他界した翌年の2022年に、第20回共産党大会が開催された。ここで習近平総書記の第3期続投が正式に決まり、習氏は報告の中で、介護保険制度を含む社会保障制度を充実させることを掲げた。
既に上海は、2016年に国内の介護保険制度(長期介護保険)の最初の試験都市になっていた。また、上海以外の15都市でも介護保険制度が始まり、高齢者を介護度によって分け、介護度の違いに応じて補助金が支給される仕組みが導入された。在宅介護でも訪問での診療やケアを享受できるようになり、黄さんも在宅介護中に、始まったばかりのこの制度を使い週3回の訪問ケアを受けた。
中国には、高齢者の90%を在宅で、7%を社区(居住エリア)で、残りの3%を施設で介護するという「9073」モデルがある。中国の介護サービスの初期段階は富裕層向けに普及し、高齢者向けにリノベーションし介護体制を備えたマンション市場が広がったが、現在ようやく中間・低所得者層に光が当たり、保険を利用した非営利かつ包括的なサービスの提供が強化されるようになった。
こうした動きに呼応するように、一部の都市では、「ベッド周りの世話を引き受ける」という民間のビジネスが地元政府の補助金制度の下で普及し始めている。
雲南省昆明市にある医護通科技は、長期介護保険に規定された看護基準に基づいて介護サービスを45種類に分類し、おむつの取り換え、入浴、理容、爪切りなどの身の回りの世話を訪問で行う人材派遣事業に取り組んでいる。
同社の曹天宇総経理によると、「中国には家族や親戚が介護ヘルパーの資格を取得できる制度もあります」という。有資格の家族が親を介護すれば、政府から手当が与えられるという制度だ。今後ますます深刻化する介護現場の人手不足に備えたものだともいえる。
一方、テクノロジーを駆使して在宅介護を支援する仕組みを構築する民間企業もあり、一級都市の一部では在宅の高齢者を集中的に見守るサービスが進行している。在宅高齢者からの電話を管理センターにつなげ、そこから必要なサービスを届けるというものだ。
そうした介護と医療向けのハイテクサービスを展開する北京信泰慧智医療科技の李玲総経理によると、「ベッドは多機能型に進化しており、モニター装置を備え付け、血圧、心拍数、呼吸数、体温を常時把握し、また在床・離床のデータから睡眠状態を分析することもできます」という。中国ではこうした「ハイテクベッド」が徐々に普及している。
2010年代を前後して、日本企業は中国の介護分野に市場を見いだそうとした時期があった。
しかし、日本の事業モデルは介護保険制度を前提としており、当時まだ制度がなかった中国の実情には合わなかった。一方で、介護保険制度が確立してからは、中国はAI、IoT、ビッグデータなどを取り込みながら、独自の事業モデルを発展させようとしている。
中国では2022年末で、65歳以上の人口はほぼ3億人に近い規模にまで達した。社会のあらゆる問題を新たな発想やテクノロジーで解決しようとする中国だが、果たして「介護の負担」が軽くなる日は来るだろうか。
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(2023年10月31日 13:47 ダイヤモンド編集部)