慶應義塾大学の評議員を選出する4年に1度の総選挙に異変が生じている。歴代の評議員には財閥系など大企業の大物経営者や各界の権威が名を連ねてきたが、今回新たにマッキンゼーや楽天グループなどの新興勢力が食い込んでいるのだ。10回超にわたり公開予定の特集『最強学閥「慶應三田会」 人脈・金・序列』の#1では、最強学閥の頂点に君臨する「最高議決機関」に生じた地殻変動を解き明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
慶應「最高幹部」の総選挙
評議員「長老支配」に転機!?
4年に1度の大イベント――。2022年は学閥の王者、慶應義塾大学の内外を揺るがす“総選挙”の年である。
選挙とは、慶應の「最高幹部」ともいえる評議員を選出するものだ。22年からの第36期の評議員選挙は8月に約30万人の「塾員」と呼ばれるOBに投票用紙が送付され、投票は10月上旬に締め切られた。10月末に新たな顔触れが公表される。
評議員は最高議決機関である評議員会のメンバーだ。最高責任者である塾長の選任といった重要事項の決定に評議員会の承認が必要となる。
まず評議員の種類をおさらいしておこう。評議員会を構成する評議員には、四つの区分がある。最初が、大学などの教職員から選出される「教職員評議員」で任期は2年だ。
そして、前期の評議員から推薦指名される「推薦評議員」と、投票によって選ばれる「卒業生評議員」、推薦評議員と卒業生評議員が選出する「塾員評議員」がある。任期はいずれも4年と定められている。
選挙の対象となるのが、卒業生評議員である。経団連に加盟するような超大手企業の大物経営者や各界の重鎮が立候補し、激しい集票合戦を繰り広げる。
評議員は慶應OBにとって最高のステータスである。ただし、近年は評議員会の運営を疑問視する声も上がっている。
象徴的な事例が、17年の塾長選挙だ。教職員の投票による塾長選挙で、得票数が2位だった前塾長を務めた長谷山彰氏が、首位の候補者を差し置いて、評議員会で塾長に承認されたのだ。
得票数2位の候補者が塾長に就くのは過去には例がない。大学上層部や評議員会議長の岩沙弘道・三井不動産会長といった長老らが押し切ったためとされている。
「組織の形骸化が始まった証左だ」。内輪である評議員からもそんな不満が上がったほどだ。「長老支配」ともやゆされてきた評議員会の閉鎖性が大きな禍根を残した。
だが、今回の評議員選挙では異変が生じている。
「若返りという発想は大事だが、若ければいいというわけではない」
22年春に開かれた評議員会。第36期の卒業生評議員の60人の候補者リストを示された、ある長老の評議員はそんな不満を漏らした。
不満の矛先は顔触れである。これまで評議員の座は、財閥系の名門企業やオーナー企業の大物経営者が多くを占めてきた。だが、今回リストに加えられたのが、楽天グループや米マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの出身者である。
新興勢力の参入は、同時に評議員の若返りも意味する。まさに旧来の勢力図が大きく塗り替わる転換点を迎えているのだ。
次ページからは、第36期の推薦評議員や卒業生評議員候補者の計85人に加え、引退する大物経営者の顔触れから浮かび上がる勢力図の変化を詳説する。また、メガバンクや大手電機メーカーの幹部の女性も多く起用される。保守的とも指摘されてきた「最高議決機関」に地殻変動が生じた背景を解き明かす。