米国の長期金利は5%を天井に低下している。カナダやユーロ圏も長期金利は低下しており、インフレ低下で利下げ期待が高まりつつある。しかし、米国は長期金利低下が株価上昇をもたらし、それが消費拡大につながる構図がある。そのため、このまま金利低下局面にすんなりと入りそうにはなさそうだ。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
主要国で長期金利低下
利下げ期待高まる
米国10年債利回りの5%でのピークアウトの公算が大きくなるなか、各国10年債利回りも同様にピークアウトしつつある。
米国では、なかなか収まらないインフレを前にFRB(米連邦準備制度理事会)が“Higher for longer”の姿勢を鮮明化させたが、このような姿勢を受けた後も強い経済統計の公表が相次いだため、市場が“Higher for forever”を意識するような状況へと展開した。
一時は30年までの全年限の米国債利回りが5%で並ぶようなイールドカーブが形成されたのだが、足元、雇用や物価の指標の落ち着きを背景に長期金利が低下している格好だ。
10年債利回りが2年債利回りを下回るような逆イールドが再び進行する格好での10年債利回り低下は、漠然とした利下げ期待を反映した格好といえるが、同様にカナダやユーロ圏などでも利下げが意識され始めているといえる。
各国におけるインフレの沈静化に寄与したのは、まずコモディティー価格の安定であろう。
ユーロ圏では、原油先物価格の安定に「前年のユーロ安の反動(ユーロ高)」が加わる格好で輸入物価(輸入財価格)が下押しされ、これが物価全体の押し下げに大きく寄与している。
米国など、ユーロ圏以外の諸国でも同様にコモディティー価格の安定が財価格の押し下げに寄与している格好である。ただ、こうした状況下でも物価上昇率は各国の目標を大きく上回っている。
各国で賃金由来のサービス物価上昇がまだ続いているためだが、カナダで11月3日に公表された10月の雇用統計において、失業率が9月の5.5%から5.7%(22年1月以来の高水準)に上昇するなど、各国における労働需給緩和も観測され始めた。
カナダの場合はトルドー政権による大量移民受け入れ政策による労働供給増の影響が大きいのだが、米国では労働参加率の上昇に伴う労働供給増が観測され始めており、こちらも10月に失業率が3.9%まで上昇してきている。
共に労働需要の減退によって賃金の伸び鈍化とインフレ沈静化が見える位置に近づいたといえ、つまり、残すは「需要サイド」ということになる。その需要も複数の国で「利上げの影響」などから減退しつつあることがうかがわれる。
次ページ以降、各国の利上げの影響がどのように表れているかを分析していく。