大和ハウス工業が分譲住宅の営業攻勢を強めている。苦戦する注文住宅から効率の良い分譲住宅へ営業の軸足を移し、最大のライバルである積水ハウスをはじめ、飯田グループやオープンハウスグループといったパワービルダーに反撃を仕掛ける。しかし、大和ハウスの大胆な戦略シフトには死角もある。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
新CM投入で分譲住宅アピール
27年度に一戸建て販売1万棟目指す
望遠鏡の先に映るのは、大和ハウス工業の分譲住宅――。大和ハウスは11月21日から、俳優の松坂桃李さんを起用する新CMを投入。分譲住宅の営業攻勢が本格的に始まった。
従来の顧客の7割が注文住宅である大和ハウスが分譲住宅を猛アピールしている。その背景には、国内の一戸建て住宅事業が苦戦していることにある。販売棟数は2013年度の1万0521棟をピークに減少が続き、22年度は5762棟まで沈んだ。
最大のライバルである積水ハウスは約1万棟、パワービルダー最大手の飯田グループホールディングスは約4万1000棟、破竹の勢いで業績を伸ばすオープンハウスグループは約1万1000棟にまで伸ばしている。大和ハウスはライバルたちに大きな差をつけられている。
その大和ハウスは今年度、国内一戸建て住宅事業のテコ入れを図っている。注文住宅から分譲住宅への戦略シフトである。
実は、注文住宅と分譲住宅のメリットとデメリットははっきりしている。
注文住宅は仕入れた土地を基に、デザインや間取り、設備機器などを顧客が自由に決めるオンリーワン商品だ。商談から契約に至るまで半年~1年程度かかり、この間に顧客の事情で失注するリスクがあるため営業効率が悪い。
また、契約にこぎ着けた後も着工から引き渡しまでに資材価格や人件費が上昇することもある。そのコスト上昇分を顧客に価格転嫁できない場合が多い。
これに対し、分譲住宅は仕入れた土地を数区画に分け、一定規格の住宅を建てて販売するので棟数が稼げる。スケールメリットを生かして資材の調達コストを抑えられる上、あらかじめコストを織り込んだ販売価格も設定できる。注文住宅に比べて入居までのリードタイムも短く回転率も良い。
つまるところ、大和ハウスは低迷する一戸建て住宅事業を立て直すべく、注文住宅より営業効率が良くコストを抑えられる分譲住宅に軸足を移したのである。全国の主要拠点に用地仕入れに特化したマネジャーを配置し、すでに数千区画の用地を手当てして“反撃態勢”に入った。
大和ハウスは、現在の注文住宅の販売棟数を維持しつつ分譲住宅を伸ばし、27年度に注文住宅3000棟と分譲住宅7000棟の計1万棟の販売を目指す。従来の顧客層からターゲットを広げ、飯田グループやオープンハウスなどの低価格中心のパワービルダーの顧客を奪う狙いだ。
さらに、大和ハウスは国内一戸建て住宅事業の戦略シフトに伴い大勝負に出ようとしている。ただし、そこには死角がある。大勝負に出ることにより、皮肉にも大和ハウスが持つ“最強の武器”が失われてしまうかもしれないのだ。
次ページからは、大和ハウスに迫る死角をつまびらかにする。大胆な戦略シフトがはらむ3つのリスクに加え、大和ハウスが失う恐れもある強みの正体について明らかにしていく。