次世代のクルマの輪郭が明確になりつつある。動力で見ると「EV(電気自動車)」であり、自動運転など新機能で見れば「SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)」になることは確実だ。SDVとはソフトを更新することで“進化”していくクルマだ。世界の自動車メーカーがSDVにかじを切る中、日本には「SDV化」に必須の技術やコンテンツを提供する潜在力を持った企業が集積している。特集『2024年急成長の8テーマ 日本の最強技術79社』(全6回)の最終回では、「次世代車」業界の技術トレンドと市場予測、そして投資の観点から、最注目の国内企業10社を厳選して紹介する。(現代文化研究所主任研究員 町田倉一郎)
クルマの付加価値は「ソフトウエア」で決まる時代に
世界の自動車メーカーが注力する「SDV」とは?
次世代の自動車は、「SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)」になるといわれているSDVとは、搭載されたソフトウエアをアップデートすることで、性能を高めたり新しい機能を加えたりすることができるクルマだ。
例えば、高度な運転支援機能は、センサー類だけでなく車載ソフトによっても性能が大きく左右される。最新のソフトに更新することで、航続距離の延長はもとより先進安全機能の向上や追加が可能になる。
SDVに先鞭をつけたのが米EV(電気自動車)メーカーのテスラだ。通信を介してソフトをアップデートする「OTA(Over The Air)」という仕組みを搭載したテスラのEVは、購入後も新しい機能が追加されたアップデートを適用できる点で画期的である。
次世代車でもう一つ大きく変わるのが「車室内環境」だ。実は、この分野では、すでに中国の新興EVメーカーがさまざまなアイデアを持ち込んで実現しつつある。
例えば、バイドゥやテンセントなど巨大IT企業を中心とした中国テック業界で進んだ「音声認識」技術を取り入れることで、さまざまな車室内サービスを実現している。最近では座席を取り囲んだディスプレーに映す映像に合わせて、音響や風などを再現し、さらに「香り」までを演出するクルマも登場している。
現在の中国市場における「クルマの商品価値観」は、新興EVメーカーが提供する新しい機能で塗り替えられつつある。これら新興企業は、強烈な価格競争という環境下で、さまざまな新機能による差別化を目指して、積極的にSDV化を進めている。
車室内環境の要素としてもう一つ挙げられるのが、将来的に見込まれる先進安全機能・自動運転機能の向上により、クルマに乗る際に「運転以外のコトができる時間」が増えると見込まれていることだ。
クルマが自動運転で走るようになれば、これまで「運転」に費やされていた時間が空くことになる。そのため、今後は車室内で何らかの機能やサービスを提供することの価値が増すのだ。現時点では完全な自動運転は商用化されていないが、短期的な競争環境の激化だけでなく、中長期的な競争力の確保と先行者利益の獲得が背景にある。
こうした中、日本の自動車メーカーも急速にSDVへかじを切っている。日本勢には、これまで積み上げてきた優位性だけでなく、将来的な市場も、テスラや中国新興EVメーカーによって奪われるのではないか、という危機感があるのだろう。
実際、欧米の自動車業界では、SDVには欠かせない、クルマの“頭脳”といえる「車載HPC(ハイパフォーマンスコンピューター)で日本は中国に5年遅れている」との指摘も出るほどだ。
しかし、遅れている分、日本の自動車メーカーがSDV化を加速することや、車室内環境を快適にする技術やサービスを開発することで生まれる需要もまた、大きなものになる可能性がある。日系自動車メーカーの「本気」を支えるさまざまな企業が国内には存在しており、その動きは見逃せない。
次ページでは、「次世代車」関連企業、計10社を厳選し、それぞれ強みとなる注目ポイントと共に、今期と来期の予想営業増益率を、銘柄表にまとめて紹介する。