「リスキリング」に怒る中高年、「怒り」を見せない若者
「怒りの感情」と一口に言っても、世代によってガスが溜まる原因も、その表し方も異なる。それぞれの特徴を知っておけば、企業側は従業員の「怒り」に対処できることもあるだろう。昨今、中高年においては、「リスキリング」が“着火剤”になるケースが多いという。
安藤 リスキリングの対象になるのは、主に若年層ではなく中高年層ですが、彼ら彼女らがリスキリングを勧められることに怒ったり、抵抗したりすることをよく耳にします。人事部や上司などからリスキリングを持ちかけられると、「いまのあなたの知識やスキルでは通用しないから、学び直してください」という意図を感じてしまう人が多いのです。すると、「自分には価値がないのだろうか?」と不安になったり、バカにされたように感じます。これがガスとして充満すると、ささいなきっかけで爆発してしまうのです。こうした中高年層に必要なのは「リ・リビング」といった姿勢で、自分自身の人生にしっかり向き合うことです。
デジタルネイティブであるZ世代の「怒り」に対しては、企業側はどう対処すればいいのだろう。特に今年(2024年)の春は、授業や対人コミュニケーションの多くがオンラインだった世代が入社してくる。彼ら彼女らが、「怒り」をどのようなところに感じ、どのようなかたちで他者に向ける傾向があるのかを知っておきたい。
安藤 コロナ禍をオンラインで過ごした世代は、「会って顔を見る必要はない」というコミュニケーション感も持っています。これから、彼ら彼女らが入社してきたときにどのような課題が生じ、管理職や人事部がどう対応する必要があるのか――これは直面してみなければ分かりません。私は、主語が大きくなってしまいますが、いまの若い世代はクールで、シニカルで、喜怒哀楽をあらわにすることに嫌悪感を持っている人が多いように思います。そうした部下が怒ることを恐れる上司がいますが、むしろ、怒りを見せてくれるほうが楽かもしれません。上司は、「部下を怒らせない」ことに執着しないほうがよいでしょう。「部下が怒っても構わない」という気構えなら、コミュニケーションのあり方も変わってきます。
事前に「怒り」をあらわにしたり、不満を説明したりすることなく、突然、会社を辞める人もいるが……。
安藤 大切なことが2つあります。1つは、感情を見せない彼ら彼女らが何に対して不満を持っているのかをはっきりさせるために、「リフレクション(内省)」をサポートすることです。「いま、どんな不満があるの?」と聞いても、「特にないです」と言われるケースも多いでしょうが、問答を繰り返していくなかで見えてくることもあります。アンガーマネジメントの研修を受けた方のなかにも、「会社から言われたから研修に来ただけで、何かに怒っているわけではありません」と言いつつ、リフレクションを深めていくうちに、自分自身の中にある「怒り」に気づいた、という方がいます。
もう1つは、彼ら彼女らのモチベーションを見つけるために手を貸すことです。労働時間や給料を改善すればたしかに不満は消えるかもしれませんが、仕事の動機付けにはなりません。「仕事を通した喜びや楽しみとは何なのか?」「どんなことのためなら自分から動きたくなるのか?」――そんなリフレクションをサポートしてあげること。なぜなら、若い世代の多くは、自分自身をよく理解していないためにやりたいことが見つけられず、そこから不満や不安などのガスが溜まっていくことが多いからです。