三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第51回は「団塊の世代が高度経済成長をリードした」という誤解をただす。
真の立役者は…
日本経済の歩みを振り返る道塾学園創業家の当主と主人公・財前孝史の議論は、戦後の高度成長に及ぶ。団塊の世代が原動力となったと認識する財前の見方を当主は否定し、日本の成長は「ただ単に『人口ボーナス』があったからだ」と言い切る。
藤田家当主の切り捨てはやや乱暴だが、団塊の世代を高度成長の立役者と考えるのは無理がある。団塊の世代は1947年から49年に生まれた約800万人を指す。1957年から1973年までの高度成長期を、48年生まれの人は9歳から25歳として過ごしたことになる。
団塊の世代も一翼を担っただろうが、社会の中核として復興と高度成長をリードしたのはもう一つ上の「焼け跡世代」や昭和一桁生まれ、大正生まれの人々だった。
一方、団塊の世代は、文字通りの「人口の塊り(かたまり)」としての存在感は大きい。日本に1980年代まで続く人口ボーナス期をもたらしたのは間違いない。
ほとんどの経済指標は長期予測がほぼ不可能だが、その例外が人口だ。10年後の日本の総人口はかなりの確度で予想できる。成人人口や高齢者の人口はもっと正確に言い当てられる。致命的な疫病やよほどの大災害でもない限り、現時点で「勝負がついている」からだ。
だからこそ人口ボーナスは長期投資で重要なファクターとなる。いろんな定義があるが、基本的な考え方は15歳から64歳までの生産年齢人口が全人口に占める割合に着目することだ。
従属人口(若年者と高齢者)より生産年齢人口の伸びが大きければ、経済は飛躍しやすい。もう少し解像度を上げると、生産年齢人口のうち35歳から54歳のコア部分、働き盛りで消費盛りの世代のボリュームが経済成長を左右する。
人口ボーナスと人口オーナス
人口ボーナスの観点から見れば、今後の世界経済の主役候補ははっきりしている。インドとアフリカだ。インドは2030年代半ばまでボーナス期間が続き、アフリカは今世紀半ばまで人口の伸びが見込まれる。
では、インドとアフリカの企業の株式を長期保有すれば良いかと言えば、それほど単純な話でもない。人口ファクターは高度成長の必要条件だが、十分条件ではない。
健全な経済成長には、市場経済の基盤、特に金融システムの発展が欠かせない。政府や企業が成長マネーを調達できて、家計はクレジットカードや住宅ローンにアクセスできる。借金で経済にレバレッジ(てこ)を効かせないと、ポテンシャルは生かしきれない。
ボーナスとは逆に、高齢化が経済の重荷になる時期は「人口オーナス」と呼ばれる。世界の先頭ランナーは日本だが、日本以上に出生率の低下が著しい韓国や、総人口と生産年齢人口が減少に転じた中国もオーナス期を迎えている。人口構成をみると、日本よりも「下り坂」はきつくなる見通しだ。
欧米や日本、中国やインドなど人口動態に興味のある方は、ベテランファンドマネジャーの平山賢一氏と私がデータを深掘りした対談動画「人口から考える投資」をぜひご覧いただきたい。