台湾総統選で民主進歩党(民進党)の副総統・頼清徳氏が当選した。頼氏は「台湾独立を求める実質的な活動家」と自称し、急進的な台湾独立主義者と見なされた人物だ。民進党を台湾独立派と見なす中国にとっては望まない結果となったが、中国はこれを機に一気に武力統一に向けて駒を進めるのだろうか。(「China Report」著者 ジャーナリスト 姫田小夏)
「民進党が勝つといいね」と言われてもうれしくない
1月13日に行われた台湾での総統選挙で、与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統が約558万票(得票率40%)を得て勝利した。前回(2020年)の総統選挙では、香港で起きた民主化デモで高まった中国への警戒感で、民進党の蔡英文氏が約817万票(得票率57%)を集めて圧勝し蔡政権の続投となったが、今回の選挙では多くの有権者が民進党離れを起こした。
今回の総統選挙は、中国と「距離」を置く頼氏、「融和」を目指す国民党の侯友宜氏、民衆党の柯文哲氏による三つどもえの接戦だった。各党に共通していたのは「現状維持路線」。現状維持とは「独立」を選ぶのでもなく中国との「統一」を選ぶのでもない、今の状態を変えないことを意味する。
前回の総統選挙では、中国に強い姿勢を取る蔡氏が圧倒的な人気で、このとき掲げたスローガンは「抗中保台(台湾を守るために中国と戦う)」というものだった。当時は、これが有権者に強く響いたが、すでにその流れは変わっている。
都内で生活する台北市出身の20代の張怡君さん(仮名)は、選挙期間中に感じた自身の気持ちを筆者にこう訴えた。
「日本人の知人は私の顔を見ると、決まって『民進党が勝つといいね』『独立できるといいね』などと声を掛けてくれました。台湾の置かれた立場への配慮だとは思うのですが、私にはまったくうれしくないことでした」
張さんは、暴走しそうな民進党に台湾の命運を託すことは不安に感じると言い、「気持ちはむしろ国民党に近い」と話す。近年、張さんのような考え方を示す台湾の若者が増えており、今回の投票結果にもその影響がにじみ出た。