OPG暗闇の中で見えてくる「真のダイバーシティ」とは? Photo:Daniel A Lloyd/gettyimages

同時通訳者として、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、ダライ・ラマ、オードリー・タンなど世界のトップリーダーと至近距離で仕事をしてきた田中慶子さん。「多様性とコミュニケーション」や「生きた英語」をテーマに、現代のコミュニケーションのあり方を考えていきます。今回は、バースセラピストで、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の総合プロデューサーを務める志村季世恵さんとの対談をお届けします。ダイアログ・イン・ザ・ダークは、暗闇の中、視覚障害者のアテンドで参加者間が対話を行う「暗闇のツアー」であり、ソーシャルエンターテインメントです。暗闇の中での「対話」で何が起こるのか? そこから見えてくる真の「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン」とは?(文・構成:奥田由意、編集・撮影:ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)

暗闇を歩くことで感性が開かれる
自分の中の知らない一面を知ることができる

田中慶子さん田中慶子(たなか・けいこ)
同時通訳者。Art of Communication代表、大原美術館理事。ダライ・ラマ、テイラー・スウィフト、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、U2のBONO、オードリー・タン台湾IT担当大臣などの通訳を経験。「英語の壁を乗り越えて世界で活躍する日本人を一人でも増やすこと」をミッションに掲げ、英語コーチングやエグゼクティブコーチングも行う。著書に『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』(KADOKAWA)、『新しい英語力の教室 同時通訳者が教える本当に使える英語術』(インプレス)。Voicy「田中慶子の夢を叶える英語術」を定期的に配信中

田中 よろしくお願いいたします。まずはあらためて、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは何か、概要を教えていただけますか。

志村 真っ暗な空間の中で、目の見えない人に案内をしてもらいながら、参加者たちと「対話」をします。

 暗闇での体験を通し、人と人との関わり合いや、対話することの大切さ、自身が持つ五感の豊かさを感じることができます。

田中 暗闇の中では、自分を俯瞰(ふかん)することで世界が拡張され、「自分は世界の多様性の中にいるんだ」という自覚を持つことができるんですよね。それまでと違うものが見えるようになる。

 同時に、自分の中の知らない一面を知り、自身の中にも多様性があることを感じることができる。その不思議な感覚を体験するために、私も何度か参加させていただいています(※)。
※東京都港区の浜松町、劇団四季の劇場もあるアトレ竹芝内の「対話の森」ミュージアムで常時、体験することが可能(予約制)

志村 暗闇の中を歩くことで、視覚以外の感性が開かれます。同じ回の参加者たちと自然と協力し合う中で、開くこともあるようです。すると、自身が持つ豊かな感性など、それまで気づいていなかった多くの発見に出会えるんです。

田中 自分がこれまで、いかに限定された範囲の人々としか接していなかったかを思い知らされるんですよね。親しい人と一緒に行ったときは、「この人、こういう一面もあるのか」と知らなかった面を知ることもできる。一定の関係性があっても、普段は決まった枠組みの中で、その人の一側面しか見ていないと気づくんです。何より、暗闇の中で普段と違った体験をすることは、シンプルに楽しいですよね。

おふたり

志村 「暗闇の対話ツアー」というソーシャルエンターテインメントともいえ、プログラム内容は定期的に変わりますので、参加するたびに新たな驚きと発見があると思います。

 1人でも、誰かと一緒でも、また、一緒に来る人によっても、毎回違う発見があるのです。参加者が知らない人同士でも、90分のツアーが終わると、「別れ際が何だかさびしい」と言う人が多いんですよ。

 普段は初めて会う人同士というのは、お互いの殻が破れて距離が近づくまでに時間がかかりますよね。でも暗闇の中ですと、自ずと殻が破れてきて、あっという間に、人と人との距離が近づくのです。

田中 暗闇の中だと、コミュニケーションについて深く考えさせられるんですよね。例えば、相づちを打ちたくても、うなずくだけでは暗闇の中では見えないので、声に出して伝える必要がある。コミュニケーションというのは、ボディランゲージが補完している部分がこんなにも大きかったのかと、普段、意識していなかったことに気づいて、がくぜんとします。

 普段、私たちは、「この人は何歳くらいかな」とか「こういう仕事をしているのかな」とか、相手を見た目で判断する傾向があります。でも暗闇の中では、外見もわからないので、いや応なしにコミュニケーションのみで人となりを知ることになる。私がしている通訳という仕事はコミュニケーションに大きく関わるので、とても貴重な体験なのです。

志村 私たちの予想を超えた暗闇の使い方もあるようです。交際をしていた人からプロポーズをされた。でも決め手がほしい、暗闇の中だと相手の本質が見れるかもしれない。体験後、「彼の優しさは本物だった!」と、そこで結婚を決めたという人もいます。

田中 参加者間で、恋が芽生えたりもしそうですね(笑)。