ギルソンが倒れた――。城山三郎の代表作『男子の本懐』の出だし、「内閣が倒れた」ではないが、そんな感想を抱いた向きが少なくなかったのではないか。三菱ケミカルグループトップのジョンマーク・ギルソン社長の退任が発表された23年12月22日のことである。「代表執行役の異動に関するお知らせ」と題された午後1時30分の適時開示には、淡々と24年4月1日付でギルソン社長が退き、石油化学担当の筑本学執行役エグゼクティブバイスプレジデントが後任に就くことが記されていた。6月には取締役も退任、同社を去る。
ギルソン社長の退任によって、石化を中心とした改革機運がしぼむことを嫌気したのだろう。931円で始まった22日の同社の株価は、午後1時30分の発表とともに急落。871円を底値に、終値が888円という展開を辿った。
市場との失望とは裏腹に、とりわけ社内外の化学関係者からは安堵が広がった。「これでようやく正常化する」と。派手な構想はぶち上げるが、進捗はみられず閉塞感は強まる一方。社員がどんどん退職しているともいわれ、同社の先行きを懸念する声が広がっていることを考えれば、それも当然だろう。「ギルソンがバックレた」「反ギルソン派による“クーデター”が成功した」と楽屋雀の間でも見方が割れるが、にっちもさっちも行かなくなりつつあった売上収益4兆6345億円の巨艦・三菱ケミカルグループが正常化する契機になることは間違いない。
だからこそ、改めて問い直したい。この間のギルソン社長の治世は何だったのかと。